ハラールラーメン 畑中三応子 食文化研究家 連載「口福の源」
2025.02.03

正月に浅草を歩き、至る所にラーメン店が新規開店しているのに驚いた。どこも訪日観光客で賑(にぎ)わっている。
浅草3丁目でフランス料理店を営む篠田朋さんに聞くと「もともとラーメン店は多かったが、外国人観光客向けの店が急増した」とのこと。特に目立つのがハラールラーメンで、コースが1万円の高級店も出現しているそうだ。
「ハラール」とは、イスラム法で食べることが許される食材や料理のこと。反対に、食べてはいけないものは「ハラーム」と呼ぶ。イスラム教を信仰するムスリムが最も避けるべきハラームが、豚肉と酒類だ。
ラーメンはスープに豚骨を用いることが多く、具のチャーシューが豚肉だから絶対的なハラームである。日本に来てラーメンが食べられないのは、アメリカを旅してハンバーガーが食べられないのと同じ。マレーシア、インドネシアなどから訪日するムスリム観光客が増加している今日、食の多様性の実現に向けて外食店でのハラールの取り入れが活発になっている。
とはいえ1万円は高い。在日ムスリムや日本人も気軽に行けるハラールラーメンはないものか。見つけたのが「あやむや大塚店」だった。
扉にはイスラム法にのっとっていることを証明する「ハラール認証マーク」が掲示されている。エジプト出身の女性店長ノハ・エルサエドさんによると、日本で何カ所かあるハラール認証機関のうち最も権威があるマークだという。取得するには調味料に至るまで厳しい検査がある。
「スープをはじめ、見た目では材料が分からない食べ物が多いため、このマークを見るとムスリムは安心します」
そう語るノハさんは6年前に来日して福岡外語専門学校で日本語を学び、バリスタを目指して調理専門学校の2年コースを修了した。"こだわりのカフェ"で働きたかったが、個人店が多く外国人の受け入れが進んでいないため、縁あって今の店に就職した。酒類や豚肉を扱うベーカリーで働き、精神的にきつかった経験があるだけに、ハラールの環境にいる現在、安心して働けて幸せという。
「あやむ」は、マレー語、インドネシア語で「鶏」を意味し、スープ、チャーシューともに鶏肉で作られる。スープはニンニクがほのかに香り、魚の風味も感じられしっかり濃厚。日本人にも納得の味だ。(写真:定番の「鶏そば醤油」990円。初ラーメンの外国人はもちろん日本人にもおいしい味にこだわる)
メニューの大半は1000円台。もっと安く提供したいと上司に相談したが、無理だった。ハラールの鶏は飼育から処理まで特別な方法が取られ、原価が高いためだ。
客との会話が大好きというノハさん。日本人の常連もつき、アラブ世界の食文化について聞かれることが多くなった。ラーメンを入り口に、異文化交流が進んでいる。
(Kyodo Weekly・政経週報 2025年1月20日号掲載)
最新記事
-
ハラールラーメン 畑中三応子 食文化研究家 連載「口福の源」
正月に浅草を歩き、至る所にラーメン店が新規開店しているのに驚いた。どこも訪日観光客で賑(にぎ)わっ...
-
ブランド化で持続可能な発展 山岳民族のコーヒー農園支援(上) NNA
一般社団法人のアジア自立支援機構(GIAPSA=ジアプサ、茨城県つくば市)は、タイなどで少数民族の...
-
日銀、追加利上げ決定 0.5%に、17年ぶり水準 週間ニュースダイジ...
▼鳥インフル年明け感染加速 4百万羽処分、鶏卵1割高(1月20日) 農林水産省は養鶏場などでの高病...
-
インバウンドの好況は本物か 森下晶美 東洋大学国際観光学部教授 ...
インバウンド旅行者が飛躍的に伸びている。2024年の旅行者数は過去最高であった19年の3188万人...
-
めぐみネット閉鎖・移行のお知らせ
めぐみネットは開設以来、多くの皆さまにご利用いただきましたが、食農分野の情報を他のビジネス情報と融...
-
訪日消費、初の8兆円超 週間ニュースダイジェスト(1月12日~1月1...
▼稲作の新たな栽培方法に大賞 高校生ビジネスコンテスト(1月12日) 全国の高校生らが新規事業のア...
-
豪でも鳥インフル猛威 供給不足で卵の購入制限続く
鳥インフルエンザの感染拡大などによる鶏卵不足から、オーストラリアではスーパーマーケットでの購入制限...
-
日本食店数3%増で過去最大 タイ 成長は鈍化、総合和食が1位に NN...
日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所は1月8日、タイで営業する日本食レストランについての調査...
-
食品輸出促進で稼ぐ力強化 週間ニュースダイジェスト(1月5日~1月1...
▼大間マグロに2億円 2番目高値、豊洲で初競り(1月5日) 東京都江東区の豊洲市場で今年最初の取引...
-
コメ交渉の実像伝えず 期待外れの外交文書 アグリラボ編集長コラム
新年を迎えてもコメ相場の高騰が続き、ついに関税を払ってでも米国産を輸入する業者まで現れた。内外価格...