コーヒー店開業3年で黒字化 山岳民族のコーヒー農園支援(下) NNA
2025.02.10
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一般社団法人のアジア自立支援機構(GIAPSA=ジアプサ、茨城県つくば市)は2021年2月、タイの首都バンコクにコーヒー店「アカメーチャンタイ・コーヒーショップ」を開業した。アカ族が住む北部チェンライ県メーチャンタイ村のコーヒー農家支援プロジェクトの一環として、村と共同で出店したアンテナショップとなるコーヒー店は、24年2月に黒字化を達成した。(写真上:GIAPSAの小沼廣幸代表理事。バンコクの「アカメーチャンタイ・コーヒーショップ」にて=2024年12月4日、NNA撮影)
直営店となるアカメーチャンタイ・コーヒーショップは、バンコク中心部のサトン通りのオフィスビル「エンパイア・タワー」に設置された。村が51%出資するソーシャルビジネスだ。同コーヒー店では、メーチャンタイ産の焙煎(ばいせん)豆の販売のほか、エスプレッソマシンで抽出した通常のコーヒー飲料、経験豊富なバリスタが入れる14種類のドリップコーヒーや6時間かけて抽出される水出しコーヒーなど、こだわりの1杯を提供している。
生豆は常温で1~2年貯蔵できるのに対し、焙煎後は1~3カ月程度で鮮度や風味の劣化が加速する。焙煎豆の方が販売時の利益率が高いものの、鮮度管理などの配慮が必要となる。GIAPSAの小沼廣幸代表理事は開店当時を振り返り、「知名度がないメーチャンタイコーヒーは、他の豆と比べて競争力が低い。価格も安く、他の産地の豆と混ぜて販売されてしまう。ブランドを確立させるには直営店で、消費者においしいコーヒーを味わってもらい、知名度を高めていく必要があった」と話した。
(アカメーチャンタイ・コーヒーショップではメーチャンタイ産の焙煎豆なども販売している=2024年12月4日、タイ・バンコク、NNA撮影)
■コロナ禍の被害と恩恵
出店時は新型コロナウイルス感染症の流行真っただ中だったため、平時では考えられないような好条件でテナント契約を結ぶことができた。一方、出店地がオフィスビルだったことがあだとなり、開店から数週間後に発令された政府による在宅勤務奨励策の影響で売り上げが激減した。初月は好調な客足に後押しされ、売上高9万7200バーツ(約44万2700円)を達成したが、5月には1万4600バーツに落ち込み、1日の来客数が3人という日もあった。
厳しい状況が続く中でも、バリスタの育成などコーヒー飲料の品質向上に向け努力してきた結果、次第に評判が広がり、コロナの影響が落ち着くにつれ売上高も徐々に増加していった。23年にはタイ全国のアラビカスペシャリティーコーヒー品評会の3部門でそれぞれ3位、5位、6位と上位入賞し、コーヒーの専門家たちも一目を置くようになった。また、コーヒー豆の相場も上昇し、事業を後押しした。
ドイツ系調査会社スタティスタによると、24年のタイ市場でのローストコーヒー平均小売価格(1キログラム当たり)は52.6米ドル(約8140円)になると見込まれている。18年比で13%増となり、29年まで前年比1.7~2.7%増で小売価格が上昇していくと予測した。世界のコーヒー産業の売上高については、24年に前年比見込み2.5%増の4612億5000万米ドルに達する見通し。今後は前年比2.4~2.6%増ペースで成長し、29年には5218億9000万米ドルとなるとみられる。
小沼氏は、「21~22年に始まったコーヒー豆の国際・国内相場の高騰は、メーチャンタイコーヒーの知名度の向上とともに、メーチャンタイ村の農民たちに大きな利益をもたらした」と話す。同村の生豆の生産者価格は過去3年間で60~70%高騰した。
コーヒー相場の上昇と、ブランディングの相乗効果で、アカメーチャンタイ・コーヒーショップの24年2月の売上高は約30万バーツとなり、黒字化を達成した。純利益の50%を村のインフラ整備費や社会福祉事業などに充て、還元するという。24年度(24年4月~25年3月)は村人たちの要請で、貯水槽の増築のために、25万バーツをコーヒー店の収益とGIAPSAからの寄付で計上した。
■広がる支援の輪
日本でも、メーチャンタイ村の持続可能なコーヒー産業の発展を支援する輪が広がっている。現在、GIAPSAを経由して取り寄せたメーチャンタイ産コーヒーを提供するコーヒー店は、東京(小金井市)、新潟(三条市)、熊本市内にそれぞれ1軒ずつある。
オーダーメード眼鏡の販売事業を手がけるアイウェアメビウス(東京都渋谷区)は、熊本県の店舗にメーチャンタイコーヒーの専門店を併設した。同社の山田香代子代表はNNAに対し、「コーヒーは老若男女問わず、多くの人に好まれている飲料で、コーヒーを通して人と人が出会う場所を提供したいという思いがあった。アイウェアメビウスの30周年を迎えるに当たり、持続可能な開発目標(SDGs)を意識した貢献ができないかと考え、自然に優しい農法で作られたメーチャンタイコーヒーの取り扱いを始めた」とコメントした。今後は都内にもカフェ併設の眼鏡店を設置する予定だという。
小沼氏は、「このメーチャンタイ村での一事例を通し、村人たちが自助努力で一致団結すれば村の生活レベルを向上させることは不可能ではないということを証明することで、将来、波及効果を生み出すことができると考えている」と話した。25~26年にはメーチャンタイ産コーヒーを提供する日本での協力店舗数を倍増させる目標を掲げた。
今後の展開について小沼氏は、「特に、SDGsに対する貢献やフェアトレードへの支援という大きな枠組みの中で、メーチャンタイのコーヒー豆を使用してくれる日本を含めたタイ国内外のコーヒーショップやコーヒー豆の販売店などとの連携、そして理解・支援の輪の拡大に力を注いでいきたい」と意気込みを語った。(NNA)
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