秋は忙しい 赤堀楠雄 林材ライター 連載「グリーン&ブルー」
2024.12.23

11月末ともなれば朝夕の冷え込みは日ごとに厳しさを増し、もうそこまで冬が近づいていることを実感する。ただ、今年はまだそれほど気温が下がらず、私の住んでいる長野県東信地域の集落では、いまだに霜も降りず、氷も張らない。(写真:今年は木々が色づくのも例年より遅かった)
信州名物の野沢菜漬けは、畑で何度か霜にあたった方がおいしくなるといわれる。当家では例年なら12月初めには漬け込んでいるが、今年は少し先に延ばそうかと家族と話し合っている。移住して15年ほど経つが、毎年、冬の訪れが遅くなっているように感じる。
この地域では冬野菜の代表格である大根の種まきを8月末か9月初めには済ませる。それより遅れると冬が来るまでの生育期間が短くなり、大きく育たない。
ところが、私は毎年、種まきが遅れ、土づくりも下手なためか、近所の人が育てたものと比べると、明らかに見劣りするサイズの大根しか収穫できない。白菜や野沢菜も似たようなもので、自家用なのだからこれでいいと強がってはいるが、収穫する時にはやはり残念な気持ちになる。
「秋は忙しいぞ」とは、90歳を超えた今も日々、野良仕事に精を出している近所の長老から、移住してきたばかりのころに言われた言葉だ。
真冬には外気温がマイナス2桁にまで下がることさえある当地では、作物が畑で育つのはせいぜい11月末まで。水分の多い大根は凍ってしまうと風味が落ち、食感も悪くなるから、本格的に寒くなる前に収穫しなければならない。それを見越して土をつくり、種まきをしなければならず、その後の間引き作業もタイミングを逸すると生育が遅れてしまう。
近所の人たちと野良仕事について話していると、「忙しい」とか「まだ忙しくない」とかの言葉がよく出てくる。それは気候にもとづく判断がベースになっていて、今のうちにやらないと間に合わない時には「忙しい」し、余裕があれば「忙しくない」となる。冬が来れば野良仕事は仕舞いになる。終わりが厳然と決まっているから秋は「忙しい」のである。
夏の終わりから秋口に忙しくしなかったツケで、今年も大根はやや小ぶりなままだ。気が付くと近所では収穫を済ませた家が増えてきた。冬の訪れが遅れている分、もう少し大きくならないかと期待していたが、そろそろあきらめて収穫しなければならないようだ。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年12月9日号掲載)
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