南の島の村議会に誕生した「移住議員」の奮闘 菅沼栄一郎 ジャーナリスト 連載「よんななエコノミー」
2024.12.23
十島(としま)村は、鹿児島県の南から奄美大島に続くトカラ列島の七つの有人島と五つの無人島で構成される。人口は約700人だ。
有人島では最南端の宝島へ埼玉県から夫婦で移住して14年目の竹内功さん(52)は、11月の最後の日曜日に全島草刈りに参加した。これでコースの準備が整った「島1周駅伝大会」には家族5人全員で出場、小中学生組から大人まで5チームに分かれてにぎやかに楽しんだ。
竹内さんはこの春、村会議員になった。9日から始まる12月議会で、一般質問の準備も急ぐ。テーマの一つは「停滞気味の新規移住者の流れを、どう活性化するか」。
4月の村議選(定数8、候補者10)では、もうひとりの移住者も当選した。茨城県出身の埜口(のぐち)裕之さん(47)だ。人口最多の中之島を拠点に8年あまり活動してきた。
ちょうど村の特産「島らっきょう」を植えたばかり。竹内さんら仲間と共同で、春には全国に発送する。一般質問では「推奨作物の展開など農業活性化」を聞く予定だ。
移住者が議員になった事例は、1960年代などに記録がある。最近では、全国の離島でも数例出てきている。十島村では春の村議選で、この2人を含めて5人の新人議員が一気に誕生した。「一般質問をする議員も倍増して、議会がいっぺんに活気づいた」と村関係者も喜ぶ。
竹内さんの隣に住む宝島生まれの前田梅子さん(72)は「島に来て間もなく生まれた娘さんがもう中学生でね。島の人たちの気持ちをよく聞いてくれて、本当に頼りになる。移住してくる人たちのリーダーよ」。梅子さんは、当欄(「小中学生の半数が山海留学生」)で1年前に紹介した、留学生たちのベテラン里親だ。埜口さんとも顔見知りで、「あの2人が引っ張ってくれれば安心だわ」。
2人は、一般社団法人などを立ち上げて十島村の魅力を全国に発信してきた。さらに、農産物の加工などを手伝う学生ボランティアを、年間100人ほど受け入れる事業も続けてきた。
村によると、こうした移住者は最近15年で計431人(Uターン含む)だが、最大3年住み続けたのは3〜5割。2014年にはこれまでで最高の59人が移住。その2年後には十島村の人口が715人に増えたが、その後の移住者は減り続け、昨年度は19人だった。
この4月には、村長も12年ぶりに代わった(無投票)。久保源一郎・新村長は「700人台(今年8月現在669人)を目標にして定住促進対策を根気よく進める」と力を入れる。
一方で、きな臭い動きも気になる。十島村議団は19年、自衛隊の無人島活用を求める要望書を防衛省に提出。翌年に臥蛇(がじゃ)島で中国を意識した日米共同演習が行われた。南西諸島をはじめ日本列島全体での演習だが、新たな村議会の姿勢も問われる。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年12月9日号掲載)
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