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素麺の"ふし"  野々村真希 農学博士  連載「口福の源」

2024.10.07

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素麺の

 9月の頭に、研究室の学生たちと共に調査のために香川県の小豆島(しょうどしま)を訪れた。そこで素麵(そうめん)の"ふし"なるものを知った。小さな火ばさみやかんざしのような形をした麺で、地元ではすまし汁などに入れて食べるらしい。"ふし"のうち、丸まっているところを「ふしめん」、そこにつながる少し平べったくなった三味線のバチのような形のところを「ばちめん」と、分けて呼ぶこともあるようだ。(写真左:小豆島で見つけた素麺の"ふし" 写真右:「ふしめん」と「ばちめん」)

 小豆島では、小麦や塩、ゴマなどの材料に恵まれていたことや、瀬戸内の寒風や少雨が天日干しに最適であったことなどから、400年ほど前から手延べ素麺作りが行われてきた。手打ちそばのように薄く伸ばした生地を細く切断するのではなく、スパゲッティのように小さい穴から生地を押し出すのでもなく、手延べ素麺は、生地を一本の素麺の細さになるまで長く細く引き延ばすことによって作られる。その延ばしの工程は職人の技が凝集されたものなので、簡略に説明してしまうのは恐れ多いのだけれども、おおざっぱにいうと、ひも状にした生地を2本の棒に巻き付け、その2本の棒を上下に段階的に引き離していくことによって生地を引き延ばして細くするという工程である。このようにして最後乾燥させると、棒にかかっている生地は折れ曲がった形で固まってしまう。あれ、でもスーパーの手延べ素麺はまっすぐで、折れ曲がったところなんてないなあ。そう、その折れ曲がったところだけ切り取った、すなわち手延べ素麺の副産物が、"ふし"である。

 食品の製造工程で生まれる副産物は一般に、食べられるものであっても捨てられがちである。肥料や飼料へリサイクルされることはあるが、食べ物として活用されることは多くない。肥料や飼料から再び食品となるまでに追加的に必要になる資源が少なくないから、環境負荷の観点からは、食べられる副産物は食べ物として活用することが最優先である。「ふしめん」「ばちめん」は、それをとてもシンプルに飾らずに実現している商品だったので、思わず買ってしまったのだった。

 素麺のふしについて調べていたら、端っこグルメなどという概念にたどり着いた。巻きずしとかフランスパンとかの中心部分よりも端っこにより魅力を感じる人が一定数いるようだ。あっ。自分完全にこれです。副産物が活用されていたから...とか言ったけど、単に端っこが好きなだけかもしれない。ということで食品メーカーさん、副産物として処分している端っこ、ぜひ端っこファンに販売してください。そしたら食品ロス減りますよ。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年9月23日号掲載)

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