少子化で変化する大学の役割 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員 連載「よんななエコノミー」
2025.02.24

先日、大学入学共通テストが実施されました。志願者数は50万人に少し欠ける49万5千人でした。現在の18歳人口はおおむね100万人であることから、2人に1人が志願したことになります。前年より微増とのことですが、センター試験と名乗っていた頃には志願者が60万人を超えていた時代もありました。少子化と大学入試制度の多様化により、志願者数の先細りを回避することは難しいと考えられます。
とりわけ少子化の影響は無視できません。筆者の推計によれば、2024年の日本人の出生数は70万人を割り込み68万人台となったもようです。22年に80万人を割り込んだばかりでしたが、下げ止まる様子はみられず、減少のペースは加速しています。
減少率でみると、15年から23年は年平均4.0%でしたが、24年は前年比5.8%と減勢が加速しました。推計通りとなれば、国立社会保障・人口問題研究所による将来人口推計の中位推計で示された24年の出生数に比べて7万人の下振れとなり、低位推計の66万8千人に迫る勢いです。
1人の女性が生涯に産む子どもの数に相当する合計特殊出生率も、24年は過去最低だった前年を大きく下回る1.15程度まで下がる見通しです。このように、出生数の減少、出生率の低下に歯止めがかからない状況です。
18年後には、18歳人口が現在の共通テストの志願者数に近い水準まで減少することが見えている状況を踏まえれば、大学入学制度を大きく見直す必要性は明白です。加えて、大学そのものの在り方を根底から見直すことに迫られる時期もそう遠い未来ではないでしょう。
すでに一部の大学では深刻な定員割れを起こしているとされ、大学の廃止を含む整理統合は不可避であるとの見方があります。一方で、先進諸国の中でわが国の大学進学率は必ずしも高いものではないとの見地から、進学率を引き上げ、国民の教育水準をさらに高めていくべきとする意見もあります。
筆者は、全ての大学・学部を存続させることは難しいということは理解しつつも、大学で学ぶ人の割合はもっと増やしていくべきだと考えています。19年以降、わが国で最も雇用が増えたのは、コロナ禍の影響もあり急増した「医療、福祉」業界のほかでは、ほぼ「情報通信産業」に集中しているのが現状です。産業界からは、理系人材の育成が求められており、あらゆる産業でDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展、AI(人工知能)の活用が望まれる中、理系的思考の重要性が高まっています。
こうした状況を踏まえ、STEM教育の重要性、すなわち理系人材の育成がわが国喫緊の課題とされながら、この10年間、大学の入学者数の文理比に変化はみられません。人材育成の場として、大学が産業界のニーズに応えられていない状況です。
今後、大学の受け入れ枠が余剰になっていく段階で、大学定員の理系シフトを明確にしていくべきではないでしょうか。たとえ少子化が進んだとしても、わが国の経済発展を促す上で、産業界が求める人材を育成することは、大学など高等教育機関の重要な役割と言えましょう。
(Kyodo Weekly・政経週報 2025年2月10日号掲載)
最新記事
-
コメ伸び率70%、過去最大 1月物価3.2%上昇 週間ニュースダイジ...
▼原発回帰、再エネ最大5割 温暖化対策で脱炭素推進(2月18日) 政府は国の中長期的なエネルギー政...
-
少子化で変化する大学の役割 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究...
先日、大学入学共通テストが実施されました。志願者数は50万人に少し欠ける49万5千人でした。現在の...
-
まだ終わっていない米騒動 小視曽四郎 農政ジャーナリスト 連載「グ...
真冬だというのに米業界が熱い。雪をも溶かさんばかりに数値が過去最高の記録づくめ。米業界といえば昨年...
-
備蓄米3月下旬から店頭 高騰に対処、最大21万トン 週間ニュースダイ...
▼経常黒字、最大29兆円 24年、2年連続増加(2月10日) 財務省が発表した2024年の国際収支...
-
食いねえ!現代版〝寿司屋台〟 中川めぐみ ウオー代表取締役 連載「...
"本格寿司(すし)のキッチンカー"。全国的にも珍しいこの業態にチャレンジするのは、26歳の若き寿司...
-
学歴より食暦 安武郁子 食育実践ジャーナリスト 連載「口福の源」
今現在、「すこぶる健康!!」と自信を持って言えますか?今のコンディションは、これまで何をどのように...
-
「そらいろコアラ」の距離と時間 沼尾波子 東洋大学教授 連載「よん...
地方新聞47紙とNHK、共同通信社が地域活性化の取り組みを表彰する第15回地域再生大賞が決まった。...
-
農産物輸出初の1.5兆円 週間ニュースダイジェスト(2月2日~2月8...
▼農産物輸出初の1.5兆円 24年、12年連続で過去最高(2月4日) 農林水産省が発表した2024...
-
農業界に見るジェンダーフリー 青山浩子 新潟食料農業大学准教授 連...
女性の農業との向き合い方が変わりつつある。岐阜県で活躍する女性たちからそう実感した。日本の農業の担...
-
金に輝く島の未来へ 連載「旅作家 小林希の島日和」
「金の島」と言えば、昨年7月に世界文化遺産に登録された佐渡島の金山を思う人も多いはず。 約300万...