「そらいろコアラ」の距離と時間 沼尾波子 東洋大学教授 連載「よんななエコノミー」
2025.02.17
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地方新聞47紙とNHK、共同通信社が地域活性化の取り組みを表彰する第15回地域再生大賞が決まった。大賞受賞団体は栃木県で活動する特例認定NPO法人そらいろコアラである。
そらいろコアラは、妊娠・出産・子育ち・子育てへの包括的な支援を行う団体である。世の中に助ける仕組みがあることを知らず、制度の隙間からこぼれ落ちそうな人たちをキャッチして、不適切な養育や虐待からコアラのポケットのように守るという思いとともに活動する。
医師、看護師、助産師、保健師、社会福祉士、精神保健福祉士、管理栄養士など医療・福祉を中心としたさまざまな専門職がタッグを組む。加えてシングルマザーとしての育児経験や、中絶・死産、若年妊娠経験など、多様な経験や視点をもつメンバーが関わり、当事者の視点から支援を行っている。
行政によるさまざまな子育ち・子育て支援策はあるが、相談や申請には役所の窓口まで足を運ぶ必要もあり、やり取りには時間がかかることも多い。
だが、そらいろコアラの相談支援は、異なる手法が採られている。夜間・休日を含め365日対応のLINEによる妊娠・出産・子育ての無料相談窓口「コアLINE」を運営、ここには栃木県内外2千人を超える人々が登録する。SNSを活用することで、若年者や対面が苦手な人でもSOSを出しやすいという。LINEはニックネームでの相談も大丈夫である。ハードルの低い方法で小さなやりとりを繰り返し、「助けて」を発信しやすい工夫を重ねている。行政や医療機関などとも連携し、必要に応じて公的支援につなげる工夫も行っている。
さらに、支援が必要な子どもと親、妊産婦のための居場所「そらいろポケット」を拠点とした見守り活動を対面で実施する。また、潜在的に支援が必要な家庭に対するアウトリーチ活動、子ども食堂「コアラ食堂」、困窮・孤立した妊娠期・育児期の家庭や外国ルーツの家庭などに手を差し伸べる物資提供、親子向けの交流イベントや自然体験イベント「そらいろKidsクラブ」など、さまざまな対面型の活動も展開する。これらの活動を支える地域ボランティアは10代から70代まで60人以上という。
コロナ禍を経て、コミュニケーション手段の多様化とともに、人と人との距離感も多様化をみせる。LINEを通じて少し距離を置きながら、速やかにやり取りをするという距離と時間の持ち方は、これからの時代の交流を考えるうえで大切な作法だろう。また、専門職と関係機関、地域住民と共に、リアルでゆったり子育ち・子育てを支える居場所運営と組み合わせた支援の仕組みは、ニーズに合った多様なサービスの必要性を考えさせてくれる。
(Kyodo Weekly・政経週報 2025年2月3日号掲載)
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