学食と食品ロス 野々村真希 農学博士 連載「口福の源」
2024.01.22
入り口で今日のメニューを確認し、プラスチックのトレーを取って、列に並ぶ。ラーメンがいいなら麺類コーナーへ。カレーがいいなら丼・カレーコーナーへ。日替わり定食メニューが気になったら、おかずのコーナーへ。ご飯とみそ汁と小鉢をトレーに載せて、レジで会計を済ませ、お箸をつかみコップにお茶を注いで空いている席を探す。無事着席できたら、おっともうこんな時間、急いでいただきます!
何の話か。そう学生食堂のことである(写真はイメージ)。大学によってさまざまな個性があるけれど、ボリュームがあって温かい食事を安く食べられる学食は、間違いなく多くの学生に愛され利用されている。そしてもちろん、そこではたくさんの食品ロスが生まれている。
大正大学の岡山朋子教授の調査によれば、同大学の学食の食品ロスとしては、食べ残し、食材の使い残し、検食(検査のための食事)、ショーケースのサンプルがあるが、最も多いのは食べ残しで、特に付け合わせの野菜サラダとご飯の食べ残しが多いという。ご飯の食べ残しが多いというのは別の調査でも報告されていて、学食共通の実態とみてよさそうだ。
学食の厨房(ちゅうぼう)内での食品ロス削減努力はこれまでも行われてきたが、近年はようやく、学食の利用者や関係者も巻き込んだ食品ロス削減の取り組みがみられるようになってきた。例えば、大阪の藍野(あいの)大学は、学食での食べ残しを減らすべく小盛りサイズのご飯の提供を始めた。また、大学事務部と行事や時間割情報を共有し、学食利用者数の予測を精緻化している。それでも出てしまう食品ロスや調理くずは生ごみ処理機で液肥にし、その液肥を使ってレタスを水耕栽培している。水耕栽培は学食内に設置されていて、収穫できたレタスも学食で提供しているというのが面白い。
聖心女子大学では学生団体「Earth in Mind」が学食の食品ロス削減を主導する。食事のサンプルを写真に変更して廃棄をなくしたり、ご飯の食べ残しを減らすためにデータに基づきながらあの手この手で啓発を行ったりしてきた。
前述の岡山教授が本間薫さんと一緒に実施した「おみくじ茶碗」も面白い。食堂で利用されるご飯の茶碗の内側の底に大吉・吉・中吉・小吉と印字し、ご飯を残さず食べ切ればおみくじが現れる、という仕掛けだ。実験ベースの取り組みであり、引き続き学食に導入されているわけではないのだが、実験の前と比較して実験後にはご飯の食べ残しが7割も削減されたという。
学食で食べ残す理由では、昼休みが短く食べ切る時間がないというのも多いようだ。食品ロス削減のために大学の授業時間構成まで巻き込む...というのはなかなかハードルが高いが、そもそも食事を最後までゆっくり楽しむというのは、学生に保障されるべき権利のようにも思う。そんなことを考えていたら、午後イチのゼミに遅れてきた学生も大目に見てやろうかな、という気持ちになった。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年1月8日号掲載)
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