食育で企業と連携 キッコーマンが出前授業 岐阜市の小学校
2023.11.15
身近な食べものが、どこで何からつくられ、どんな役割を果たしているのかを学ぶため、岐阜市の小学校が食品企業の出前授業を取り入れている。学びの幅が広がると保護者の間でも好評だ。
「変身」する大豆
11月10日午前10時半、岐阜市立長良西小学校(岐阜市千代田町)の家庭料教室に、3年2組の児童34人が集まってきた。3時間目の授業は、「わくわく学ぶ 大豆と豆乳」。担任の教諭が「豆乳博士」と紹介したのは、キッコーマン(千葉県野田市)のグループ会社キッコーマンソイフーズ(東京都港区)のマーケティング本部企画開発部の市岡莉奈さん(写真)だ。
授業は、原料の大豆の粒を実際に触ることから始まった。「固い」と感想を語る児童は、乾燥して色が変わる前は枝豆と同じだと習って驚いた。豆乳に酢を混ぜる実験では、児童は固まっていく様子に「変身、変身」と大はしゃぎだ。豆腐になること、微生物による発酵で味噌、納豆、醤油などに姿を変えることも学んだ。
45分の短い授業だが、ビデオを使って北米から輸入された大豆が工場で豆乳に加工され、豆乳を使って様々な飲料、卵スープやグラタンなど食品に姿を変えていくことを習う。市岡さんは、大豆が「畑の肉」と呼ばれるほどタンパク質が多く含まれていることを説明し、地球環境の保全や持続可能な開発目標(SDGs)にも触れた。
児童は「豆乳を使って自宅でもいろいろな料理をつくりたい」「酢を加えるとトロトロになるのに驚いた」「工場でまったく違う形に変身する」と、それぞれ感想を述べ、最後に「ありがとーにゅう!」と御礼を述べた。
食育基本法がきっかけ
同社が、出前授業を始めたのは2005年。食育基本法の制定に先駆けて、同社としての食育のあり方について検討を繰り返し,同年5月に「食育宣言」を公表。「おいしい記憶をつくりたい。」をスローガンに、通常の工場見学だけでなく、実際にしょうゆづくりを体験できる「しょうゆづくり体験コース(小学校対象)」や、出前授業「キッコーマンしょうゆ塾(小学校対象)」を始めた。
授業で使う教育プログラムは、同社内の教員資格を持つ社員ら20~30歳台数人のメンバーで練り上げ、現場の教職員に監修を依頼している。授業当日も、発言を求めて挙手する児童を指名するのは、担任に任せ、児童の回答を適切にフォローできるよう、細心の注意を払っていた。
キッコーマンは「児童に教えるだけでなく、社員側が教わることの方が多い」(中島みどり経営企画室食と健康推進担当部長)と出前授業のメリットを説明する。自社や製品を説明するためには十分な準備が必要で、子どもからの意外な視点や感想が刺激になる。「なぜキッコーマンで働くのか」「この仕事をしていて良かった」などの自覚や気づきにもつながる。
岐阜県瑞穂市にキッコーマンソイフーズの豆乳工場が立地するほか、食育に熱心なことなどから長良西小学校が選ばれた。
学校側のメリットは「本物との出会いの中で学ぶことができる。実際に豆乳の製造・販売に携わる人と関わる中で、おもしろい、やってみたい、さらに調べたいといった子供の姿が生まれてくる」(服部晃幸校長)ことだ。同校は、農業協同組合JA)等の協力で野菜を栽培するなど、地域や企業等と連携した活動に積極的だ。「今後も、子供たちの主体的な学びを継続・発展できるよう、様々な外部講師を招きたい」(同)という。(文・写真:石井勇人共同通信アグリラボ編集長)
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