保護と漁の両立 島根・宍道湖のシジミ 佐々木ひろこ フードジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」
2023.11.06
秋のイベントシーズン到来。各地のシンポジウムやイベントに伺う中、先日は島根県で開催の講演会に招かれた。ならば、と数日前倒しで現地に入り、念願の松江を目指すことにした。
お目当ては、宍道湖(しんじこ)で営まれているシジミ漁。湖として全国7位の面積を備え、海水と淡水が混じり合う宍道湖は、汽水域を好むシジミの好漁場だ。島根県は2022年度に4230トンと、2位の青森県、3位の茨城県を大きく引き離し、全国のシジミ漁獲量の4割以上を産出している。(写真はイメージ)
秋晴れの朝7時、漁協の職員が操縦する小船に乗り込み、湖の沖合を目指した。風も波も穏やかな湖上を進むと、たくさんの漁船に行き交う。宍道湖では現在270人ほどの漁師がシジミ漁をしているそうだ。
長い竿(さお)の先に金属製網カゴがついた「ジョレン」と呼ばれる道具で湖底を掻(か)き、念入りにゆすって泥や砂を落とす。カゴを引き上げると真っ黒なシジミが数キロ、朝日にきらきらと輝いている。「調子はいかがですか?」と漁師さんに声をかけると、「まずまずかな」とはにかんだ表情を見せた。
宍道湖のシジミ漁には、資源管理のためのさまざまな操業規則が設けられている。たとえば操業日は週に4日。時間は、漁法によって日に3時間か4時間。カゴは幅60センチ以下、網目の大きさは11ミリ以上。さらに、現在は1日約90キロまでという各漁船の採捕量制限もある。
実は日本には、ここまでの厳しい規制、特に実効的な漁獲量規制を備える漁業はごく少ない。「宍道湖におけるシジミ漁業の漁業管理制度」(髙橋正治・森脇晋平)によると、宍道湖のシジミ漁で採捕量制限が始まったのは1973(昭和48)年だそうだ。日本の漁獲量が右肩上がりで「どんどん取っていた」この時代に、取れる時に取ることから既に脱し、資源の保護という意識が芽生えていたなら素晴らしい。
さらに同報告は、宍道湖では多くが農業主体の兼業農家(昭和53年に76・4%)であり、早いもの勝ちの漁師的発想がなかった点や、採捕量を抑えることで高値を保てる利点から制度が発展・維持されてきた可能性も指摘する。
その夜、地元の郷土料理店でシジミ汁をいただいた。ふくよかで滋味深い、格別の味わい。この先もずっと、宍道湖のシジミが食べられる未来があるよう、祈りながら箸(はし)を置いた。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年10月23日号掲載)
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