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コミュニティー冷蔵庫  野々村真希 農学博士  連載「口福の源」

2023.11.06

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コミュニティー冷蔵庫  野々村真希 農学博士  連載「口福の源」の写真

 道端に冷蔵庫を設置して、地域の人・通りすがりの人と食べ物を自由に交換する。そんなことが街中で行われていると聞いたら、多くの人はきっと、えっ、そんなことして大丈夫なの!?と思うだろう。一方で、おっ、なんかいいね、と思う人も少なくないようだ。なぜかというと、実際にそんな取り組みがアメリカ、イギリス、スペイン、ドイツ、スイス、インドなど世界各地で広がっているからだ。ちなみに私は間違いなく後者(なんかいいね)である。

 このような冷蔵庫は、コミュニティー冷蔵庫、公共冷蔵庫、みんなの冷蔵庫などと呼ばれている。食べ物の廃棄を減らしたい、十分な食料が手に入らない人達の助けになりたいといった動機から設置されていて、設置者はレストランのオーナー、食品流通業者、活動家、ボランティア団体などさまざま。食べ物は地域住民が入れる場合もあれば、レストランやスーパー、パン屋などが入れる場合もある。そして希望する人は誰でもその食べ物をもらうことができる。

 日本にもある。横浜市鶴見区にあるビル「ラ カンパーナKISOYA」のエントランスにあるコミュニティー冷蔵庫「フリーゴ君」(写真、筆者撮影)だ。中西美里さんが個人で運営している。入れてよい食べ物に厳格なルールはなく、お菓子も野菜も巨峰も牛乳もパンも、時には文房具も、本当にいろんなものが次々入ってはすぐになくなっていく。

 冷蔵庫は中西さんが定期的に中身を確認し、掃除、消毒していて清潔だ。食べ物を入れた人が備え付けのノートに入れたものを記入するようになっていて、その書かれたメッセージに入れた人の善意がちらりと見えるためか、入っている食べ物には安心感がある。

 食べきれない食品を必要としている人へ届ける取り組みとして「フードドライブ」や「フードバンク」と呼ばれる活動もあるが、それらとコミュニティー冷蔵庫の違いは、その自由さだろう。利用登録は不要で全ての人に開かれているし、賞味期限間近な食品も海外の個性的なお土産も、小分けの調味料ひと袋だって受け止めてくれる(中には利用登録が必要だったり提供可能食品に基準を設けたりするコミュニティー冷蔵庫もあるが)。

 自由な分、安全性が人々のモラルと知識に依存するところが大きく、そのことを問題視する声もあるかもしれない。けれど、そう言って禁止するにはもったいなすぎる。世の中には明確な規則なしにうまく成り立っていることがたくさんあって、だからこそ面白い(大変なこともあるけれど)と言ったら、平和ボケしすぎだろうか。食品安全は軽視できないので課題はきちんと認識しながらも、日本でももっと広がってほしいと強く思っている。

(Kyodo Weekly・政経週報 2023年10月23日号掲載)

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