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タイCPが「日本の鮮魚店」展開 魚力と100店舗、和食人気で攻勢  NNA

2023.11.08

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タイCPが「日本の鮮魚店」展開 魚力と100店舗、和食人気で攻勢  NNAの写真

 タイの財閥大手チャロン・ポカパン(CP)グループが鮮魚・すしの小売り・卸売りを手がける魚力(東京都立川市)と組み、タイで「日本の鮮魚店」の展開に乗り出した。10月30日に首都バンコクの大型スーパーマーケット「ロータス」に旗艦店を開業。初日にはマグロの解体ショーが行われ、地元客がカマを5500バーツ(約2万2900円)で競り落とすなど大いに盛り上がった。CPは日本食ブーム拡大の波に乗り、「5年で100店を開業する」と強気だ。(写真上:CP魚力の旗艦店で、日本直送の鮮魚に食い入るタイ人消費者=10月30日、タイ・バンコク、NNA撮影)

 CPグループの食品部門チャロン・ポカパン・フーズ(CPFCPフーズ)傘下で、生鮮・加工食品の流通を担うCPFグローバル・フード・ソリューション(CPFGS)と魚力が今年設立した合弁会社「CP―魚力」を通じて、東京の豊洲市場や日本各地の漁港から仕入れた鮮魚の小売店「CP魚力」を展開する。

 旗艦店はバンコク市内のBTSオンヌット駅前にある「ロータス・スクンビット50」で開業した。広い売り場のほぼ中心に位置する旗艦店の店頭には、ウニやホタテの刺し身、すし盛り合わせに加え、空輸されたばかりのマダイやキンメダイ、タチウオなど約10種類の鮮魚が並び、買い物客の目をひときわ引いた。

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(開業を記念して、店頭で50キロのマグロの解体ショーを実施。カマや中トロ・大トロの盛り合わせなどが5000~8000バーツ超の高値で競り落とされた=10月30日、タイ・バンコク、NNA撮影)

■3店で予想上回る反響、拡大に自信


 開業初日にはオープニングセレモニーが開かれ、CPフーズのプラシット最高経営責任者(CEO)や魚力の山田雅之社長らが登場した。

 プラシット氏はNNAに対し「魚力という日本で最高の鮮魚販売店をパートナーに迎えることができた。ヘルシーでオーセンティックな日本の鮮魚と食文化を、日本食が大好きなタイ人消費者に提供する」とコメント。CPグループのネットワークを生かし、傘下のロータスや卸売りチェーン「マクロ」に加え、地場流通大手セントラル・グループ傘下のスーパー「トップス」、地場小売・商業施設運営大手ザ・モール・グループのスーパー「グルメ・マーケット」などに出店していくと意気込んだ。

 魚力の山田社長によると、首都圏で既に3店を開業(ソフトオープン含む)した。「先週にシーナカリン通りのマクロで開業した店の売り上げは、予想の2倍を上回っている」と山田氏。もう1カ所は、ザ・モール・グループの商業施設「ザ・モール・バンケー」内のグルメ・マーケットでソフトオープン中だと説明した。

 プラシット氏も「シーナカリン店の反響が予想を大きく上回っている。マクロの顧客層もプレミアムな商品を求めているのだと認識できた。マクロ経営陣も、日本の鮮魚店の展開は『良いアイデアだ』と賛同している」と拡大に自信を見せる。同氏によると11月には首都圏を飛び出し、北部チェンマイのマクロにも出店する。

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(右から、CPフーズのプラシットCEO、梨田和也駐タイ日本大使、魚力の山田雅之社長、CPFGSのスジャリット社長が旗艦店のオープニングセレモニーに参加した=10月30日、タイ・バンコク、NNA撮影)

■年間売上高10億バーツへ


 山田氏は「タイでは特に若い世代が日本のすし・刺し身を好んで食べてくれていて、成長性が高い。出店は毎年、倍々ゲームが期待できる」と期待感を示す。CPFGSのスジャリット社長は「来年は10店舗を追加し、5年以内に計100店舗とする」と意気込んだ。年間売上高は、5年以内に10億バーツ超えを目指す。

■消費者から「安い」の声


 山田氏は「当社は創業96年で仕入れに強い。産地からいいものを、どこよりも安く仕入れられる」と胸を張る。プラシット氏も「飲食店のおよそ3分の1の価格で、質の高い『本物』を提供できると確信している」と価格と質の両立に自信を見せる。

 両者の言葉通り、初日に旗艦店を訪れた20~30代のタイ人女性2人組はNNAに対し「ウニ(1箱999バーツ)が他店よりも安いので買って帰る」とコメント。「週に1回はおすしを食べる」といい、すし盛り合わせ(350~400バーツ以下)も一緒に購入していった。

 子どもや10歳になる孫が「大の日本食好き」だという60代のタイ人女性も「輸送コストを考えると、商品はどれもリーズナブルだ」と語り、「家族や周囲に魚力を勧めたい」と笑顔を見せた。

 旗艦店には日本人の職人が常駐し、鮮魚をさばく作業やタイ人社員の教育を担当する。また、既に一定数のタイ人スタッフが日本で研修中。1カ月の研修を経て帰国し、各店で鮮魚の管理を担う予定だ。

■ブーム継続、日本食店さらに増加


 タイは日本にとって、日本食の最重要市場の一つだ。2022年の水産物の輸出額は前年比14.6%増の235億円で、国・地域別で中華圏や米国、韓国に続く6位となっている。タイにある日本食レストランの数は22年に5000店を超え、5325店となった。

 双日や日本航空(JAL)が出資する商社JALUX(ジャルックス)傘下で、バンコクのトンロー地区で日本の生鮮品卸売・小売市場「トンロー日本市場」を運営するJ VALUEの村松樹ゼネラルマネジャーは「日本食店は増え続けている」と語る。同社にはこのところ毎週のように開業予定の日本食店から問い合わせがあり、「新規開業は増えている印象」だという。

 トンロー日本市場は週に3回、空輸で日本の鮮魚を数十種類仕入れている。売上高に鮮魚が占める割合は65%。売り上げの6割は飲食店向けのBtoB(企業間取引)、残り4割が個人客向けのBtoCだ。店を訪れる個人客の6割はタイ人で、マグロやマダイ、ハマチ、ウニなどが人気だという。顧客数は会員登録者ベースで約2万3000人に上る。

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(18年から営業する「トンロー日本市場」は日本の魚市場を再現。その日入った鮮魚を、日本食店関係者や個人消費者が間近で見定めることができる=10月31日、タイ・バンコク、NNA撮影)

 BtoBでは常時、300~400店・社と取引している。仕入れ日(空輸便が到着する日)である10月31日の正午に店を訪れると、その日入ったばかりのカマスとウニが既に売り切れているなど、需要の高さがうかがえた。

■サーモン・マグロ以外へ人気波及


 日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所によると、タイ向け水産物輸出の主要品目は「イワシ」(22年の輸出額59億5300万円)、「サバ」(同35億200万円)、「カツオ・マグロ類」(同30億6100万円)など。ただ、これらには缶詰などの加工品が多く含まれているという。

 一方で、すし・刺し身など加工品以外の用途で輸出が急増しているのが「サケ(サーモン)・マス」、「ホタテ」、イクラを含む「キャビアおよびその代用品」だ。ジェトロバンコク事務所農林水産・食品部の谷口裕基ディレクターは「今年も日本食レストランの増加が続いており、バンコクを中心にサーモン、マグロ以外の魚種の認知度も徐々に高まりつつある」とコメント。この流れをタイの地方へと広げ、さまざまな水産物の輸出拡大につなげるべく、ジェトロバンコクは「地方でのプロモーションに注力していく考えだ」と述べた。(NNA

 <メモ>
 CP―魚力 CPFGSが60%、魚力が40%をそれぞれ出資。登録資本金は2億バーツ。小売店を通じたBtoCのほか、BtoBも行う。
 ロータスとマクロの店舗数 6月末時点でロータスは2499店舗、マクロは153店舗をタイ国内で展開している。

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