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「窓」がつくる東京・利島の交流プラットフォームブース   沼尾波子 東洋大学教授  連載「よんななエコノミー」

2023.07.03

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「窓」がつくる東京・利島の交流プラットフォームブース   沼尾波子 東洋大学教授  連載「よんななエコノミー」の写真

 東京・竹芝で先月13、14日、「東京愛らんどフェア島じまん2023」が開かれた。伊豆諸島、小笠原諸島の自治体がブースを出し、地元の特産品販売や体験イベントを行った。

 5年ぶりの開催となった今回、2日間で10万人を超える人々が来場した。全部で九つの島が出店し、アシタバ、ウツボ、伊勢エビ、くさやなど地元の特産品やグルメを販売。会場は大変なにぎわいで、どのブースも長蛇の列を成していた。

 そんな中、他とは少し異なっていたのが利島(としま)村のブースである。利島は人口約300人、面積の8割がツバキの木に覆われ、つばき油や漁業をなりわいとする島である。

 今回、この利島村ブースには、大画面の縦型モニターが設置され、画面越しに島の勤労福祉会館のボウリング場でまったりと過ごす人々が居た。そして、特産品を購入すべく列に並ぶ人たちが、画面向こうの島の人たちと何気なく話をしている。たまたまブースを訪れた人が現地の天気のことを聞いたり、島の出身者が近況報告したりと、大きな「窓」を通して島の人々との交流が図られていた。

 ここで使われていたのは「MUSVI(ムスビ)」=東京都品川区=が開発したテレプレゼンスシステム「窓」。この「窓」を地方創生や避難所での災害支援に活用し、自治体を支援している岩手県北上市のガス会社「北良(ほくりょう)」が設置した(写真)。今回、利島村の住民も島じまんの会場の雰囲気を感じ、来場者と交流できればとの考えから、利島ブースに投入されることになったという。

 ZOOMなどのオンライン会議システムの場合、同時に複数の人々がしゃべると話し手以外はミュートされ、話が聞きとれなくなる。だが「窓」は双方向で同時発話が可能。生活や空間にあるさまざまな音も聞こえるため、同じ空間にいるような自然なコミュニケーションが可能となる。画像も鮮明で、まさに窓の向こうを見ているようだ。「窓」を通じて、島の人々と自然につながり、スタッフが翌日の予定について「窓」から話をしていたのが印象的だった。

 自治体がブースを出し、地元の特産品を販売するイベントは各地で催されている。だが、そこに、離れた空間をつなげてくれる「窓」を用意し、来訪者や出身者が地元の様子を感じたり、地元の人々と自然に交流できる場が用意されるのは珍しい。島の様子が「窓」から伝わり、懐かしい会話が聞こえてくるユニークなブースとなった。

 利島村は、北良など複数企業と連携し、新たにオフグリッド(電力網に頼らないエネルギー自給)住宅の実証実験を準備しているという。次の展開が楽しみだ。

Kyodo Weekly・政経週報 2023619日号掲載)

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