ニューヨーク発「獺祭」 地酒として世界へ 大塚圭一郎 共同通信ワシントン支局次長
2023.02.20
日本酒「獺祭」を手がける旭酒造(山口県岩国市)は米東部ニューヨーク州に建設中の製造拠点を早ければ今年3月にも開業し、日本酒を醸造する。
同社初の海外生産拠点となり、投資額は約70億円。米国産ブランドを「ダッサイ ブルー」と名付け、酒米「山田錦」で造った純米大吟醸を米国とカナダで販売する。桜井一宏社長は、現在4割超の海外販売比率が「将来は9割を占める」との展望を描く。
東京ドーム1.3個分
ニューヨーク中心部マンハッタンから北に100㌔超、ハドソン川の近くに建設している製造拠点の敷地は東京ドーム1.3個分に当たる約6万2000平方㍍あり、和風の外観の主要施設「清酒蔵」(延べ床面積が約5100平方㍍)には酒造りに使う日本企業製の5000㍑のタンクが52本並ぶ。(写真:視察する桜井社長(左から2人目)=2022年10月19日、筆者撮影)
山田錦は日本産に加え、米南部アーカンソー州産も使用。新型コロナウイルス流行の影響で約3年遅れた稼働開始後は、米国で採用した6人の製造担当者を日本からの熟練職人3人が支える。見学者も受け入れ、商品を試飲できるようにする。
当初の年間生産量で700石(一升瓶7万本分)を目指し、約10年で7000石へ引き上げたい考えだ。主に750㍉㍑、375㍉㍑の容器に入れた「ダッサイ ブルー」を今年夏に発売予定。ブルーの名称には「ことわざの『青は藍より出でて藍より青し』のように米国の環境で進化し、獺祭を超えることを目指す」(桜井氏)との思いを込めた。
「地酒」として世界へ
国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されている和食の「お供」として愛飲される日本酒は、米国での需要が好調だ。
日本酒の米国輸出額は2022年1~11月で計約102億円と前年同期より約19%増(国税庁調べ)。国内出荷量が20年度に約41万㌔㍑と、ピークの1973年度の4分の1未満に落ち込んだ中で"福音"となっている。
米国生産は日本から輸出する場合より税金や輸送費を抑えられるため、「松竹梅」ブランドを抱える宝ホールディングス、月桂冠、大関が米西部カリフォルニア州で日本酒を生産する。
これに対し旭酒造がニューヨーク州を立地に選んだのは、日本酒の飲用シーンを和食以外に広げるには「文化を世界中に発信するニューヨークが最適だからだ」と桜井氏は強調する。ニューヨークの地酒として売り込み「食文化を変える」と鼻息が荒い。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年2月6日号掲載)
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