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食料安保は農家への敬意から  穀物も肉も頼りは国内  小視曽四郎 農政ジャーナリスト

2023.01.30

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食料安保は農家への敬意から  穀物も肉も頼りは国内  小視曽四郎 農政ジャーナリストの写真

 同じ安全保障の問題でもかくも大きな差を感じるのは、防衛力と食料への岸田文雄首相の態度だ。防衛ではバイデン米大統領に約束していた「抜本的強化」と「相当な増額」が、新春の訪米土産として出来上がったようだ。対する食料政策。価格高騰を「日本経済の大きなリスク要因」と、食料安保の重視を明言した首相。だが2023年度予算の食料安保関連で多少目に付くのは、麦大豆の生産拡大のための、水田の畑地化や長期保管施設の整備など。「今が食料安定供給のターニングポイント」(野村哲郎農相)という割には、驚きのない地味な予算編成だった。

 それどころか、飼料用米助成はようやく軌道に乗ってきたのに、一般品種で主食用に戻りやすいなどの理由で基準価格(10㌃当たり8万円)の段階的な引き下げを決めた。飼料用米は輸入頼みの飼料となる一方、コメの作柄によっては主食用にもできる柔軟性を持つ。一部には「食料安保の要」との指摘もある。それだけに「これで安保と言っても、現場は盛り上がらない」(東北地方のJA営農担当者)との声が聞こえる。

 なぜこうも違うのか。政府のトップの姿勢といえばそれまでだが、食料や農業への政府全体の認識が不足しているとしか思えない。財政当局の「厳しい財政状況」は常套句。だが、財務相の諮問機関の財政審議会で出た「食料自給率を高めることを目的とした補助金漬けの政策で、農業の弱体化を招いてきた」との意見は、まるで食料自給が悪いかのようだ。しかも農家への上から目線が鼻につく。まして「補助金漬けが農業の弱体化」とは、実態をごまかした批判として今やほとんど口にする人はいない。

 輸入に頼れば穀物も肉も、何でも買える時代は終わった。政府・官僚も食料問題への認識や偏見を、即座に改めるべきだ。食料で頼るのはやはり国内の農家や資源。ほとんどの農家は資材高や価格低迷の中、営農継続に必死だ。今こそ農業関係者のやる気の喚起が望まれる。

 その点で国内農家には、今風に言うならリスペクトが必要だ。人類と食をテーマに研究してきた欧州復興開発銀行(EBRD)初代総裁の経済学者ジャック・アタリ氏は、最近のテレビインタビューで「日本はまず農業という仕事を魅力的であるという事実を作り出すべきだ」とする一方、「社会的地位でも収入の面でも、農業という産業を魅力的にしなければならない」と農家の地位向上を提言した。

 世界的に著名な経済学者の故宇沢弘文氏は「農の営みという最も本源的な機能を担ってきた人々が持つ優れた人間性とその魅力的な生き方が、日本社会の社会的安定性と文化的水準の維持という観点からいかに大きな役割を果たしてきたか」と農家を称賛していた。食料安保の強化という大役を果たそうとするなら、まずは農家への敬意がカギではないか。

(Kyodo Weekly・政経週報 2023年1月16日号掲載)

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