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回復遅れる飲料受託製造  受託量増加に時間差  幕田宏明 矢野経済研究所フードサイエンスユニット主任研究員

2022.12.15

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 2021年度の飲料総市場は、3年ぶりに拡大に転じたものの、期待したほどの拡大には至らなかったという声も多い。最大の要因が新型コロナウイルスの影響の長期化であることは、言うまでもない。22年の年明け以降も感染の波が繰り返され、そのたびに緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発出されたことで人流が滞り、20年度と同様、飲料の消費は低迷した。

 飲料消費の起爆剤の一つとして期待されていた東京五輪・パラリンピック(21年7月~)も、一部を除き無観客での開催となったことで、世界的な大会が開催されるというお祭りムードは盛り上がりに欠けた。開催を疑問視する声もあったことで、現地での消費だけでなく、大会と連動した販売促進やキャンペーンがやりにくい状況であったこともマイナスとなった。

 新型コロナウイルスという未知の脅威に直面したことで、感染拡大当初はメーカー側も手探りでの対応となった。予定していた商品の発売やマーケティング施策を実施することができないケースも散見され、人が出歩かなくなった中、どのように商品の価値を伝えていくかが大きな課題となった。

 2021年に入るとこれまでの試行錯誤がノウハウとなり、オンラインを中心にさまざまなプロモーションが消費者に向けて発信されるようになった。また、店頭での試飲販売やサンプリングがやりにくくなったことから、コンビニでの「One buy One」(1つ買うともう1つは無料)キャンペーンも増加した。

 2022年度は、新型コロナウイルスの終息は見通せず、いまだ変異株の発生による感染の急拡大などの危険性をはらんではいるものの、これまでのような行動制限がなくなり、旅行や行事、イベントの開催が可能となったことで、各地に人出が戻ってきていることから、もう一段の回復が見込まれる。
 関連記事:3年ぶり5兆円台も 22年度の飲料市場 矢野経済研究所

環境配慮型容器の開発進む


 プラスチック使用削減の世界的な流れを受け、飲料業界も対応を迫られており、循環型社会への貢献とCO²を含む環境負荷低減の観点から、大手飲料メーカーを中心に植物由来素材を使用したペットボトルの採用や、使用済みペットボトルを原料化(リサイクル)し、新たなペットボトルに再利用する「ボトル to ボトル」の取り組みが徐々に広がってきている。

 通販チャネルの伸長や環境面の配慮などから2020年以降、商品にラベルを巻かないラベルレス商品が急速に広まっている。プラスチックの樹脂量の使用を減らせることに加え、ラベルをはがす手間がないことで消費者からも好評なことから、各社からラベルレス商品の販売が相次いでいる。これまでのラベルレス商品は通販チャネルでの販売が主であったが、店頭でもラベルレス商品を販売する動きが出てきている。

コスト上昇で値上げに動く


 飲料市場は価格訴求性が高く、値上げのしにくい業界といわれている。以前はメーカー各社が販売ボリュームを確保するため、大型容器を中心に低価格での販売を実施し、流通側もチラシの目玉としてこれらの商品を歓迎した。

 そういった動きが常態化し、消費者にとってもその価格が当たり前となってしまったことから、原料価格の高騰などで他の食品が値上げされても、清涼飲料については値上げがされにくく、反対に店頭価格が下落するデフレ状態が長く続いていた。

 しかし原材料価格や容器包装価格、物流費といったさまざまなコストが急激に上昇したことで、2022年に入り大手飲料メーカーを中心に各社が値上げに踏み切った。大型のペットボトルに関しては、コカ・コーラシステムが量販店、オンラインチャネルを対象に、20225月1日出荷分より出荷価格を引き上げた。

 この時は他社が追随することはなかったが、その後の市況がさらに悪化したことを受け、サントリー食品が10月出荷分から小型ペットボトルについて希望小売価格の引き上げを発表すると、アサヒ飲料、キリンビバレッジ、伊藤園など各社が次々と値上げを発表し、5月は大型の納価の値上げだけであったコカ・コーラシステムも、小型ペットボトルについて希望小売価格の値上げを発表した。小型ペットボトルの値上げは19983月以来、約24年ぶりとなった。

「パッカー」回復遅れ、苦境鮮明に


 飲料市場における重要なプレイヤーとして、飲料メーカー(ブランドオーナー)から商品の製造を受託する飲料受託製造業者(パッカー)が存在する。

 一定の規模を持つブランドオーナーであれば、全ての商品を自社の工場で製造するのは現実的でないことから、飲料市場においてパッカーは重要な役割を果たしている。しかし近年はブランドオーナーが基幹ブランドを起点に安定した収益を確保しようとする動きが目立っており、コロナ禍でその傾向がさらに鮮明となった。

 ブランドオーナーは物量の見込めるこれらの商品を自社製造することで効率化を図っており、その分パッカーへの委託割合は減少基調にある。そのためコロナの影響は、ブランドオーナー以上にパッカーに大きな影響を与えている。飲料市場は回復基調となっているものの、ブランドオーナーからパッカーへの委託量の増加には時間差があり、パッカーの回復は遅れている。

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 中長期的な飲料市場の縮小が見込まれる中、パッカーを取り巻く環境は厳しく、受託量の増減がある程度ブランドオーナー側の製造戦略に左右される特性上、市場の継続的な拡大は難しい。コロナ前後で飲料市場を取り巻く環境は大きく変わり、以前の状態には戻らないともいわれている。

 そのため飲料市場も新しい生活様式に対応することが余儀なくされ、これまで売れていた商品、容器、チャネルなどがこれまでとは大きく変わってくる可能性もある。

 こうした変化はこれまで安定的に獲得できていた商品の受託が減る可能性がある一方で、新しい受託を得るチャンスと取ることもできる。新しい時代のパッカーには市場の流れとブランドオーナーの動きをいち早くつかみ、そこに自社の戦略をいかに合わせていくかが求められている。

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