円安と物価上昇で岐路に 技能実習制度、賃上げが喫緊課題 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員
2022.12.12
仕事柄、全国の地方都市を巡る機会が多く、その際、地域の貴重な労働力として働いている外国人技能実習生の姿をよく見かけます。現在、農業、水産業、建設業、製造業と一部のサービス業で実習生の受け入れが行われており、近年はベトナム出身者の実習生が増えています。
外国人技能実習生は、もちろん発展途上国などから人材を受け入れ、技能習得を支援する国際協力という建前はあるものの、実際には、労働力不足の業種や地域において人材確保を図るための取り組みであり、実習生からみれば出稼ぎという側面は否めません。一般に賃金水準が低く、仕事もきつい農業や水産業などでは、若い日本人が就業を避けるため、技能実習生は、そうした産業にとってなくてはならない人材となっています。
こうした技能実習制度が、もともとの低賃金とともに急速に進む円安と物価の上昇によって、岐路に立たされています。2021年の賃金構造基本統計によれば、技能実習生の賃金は月収で16.4万円と、高卒の新入社員の賃金18.0万円よりも低く抑えられています。
ただでさえ低い賃金水準に加え、足元で円安と物価上昇が進み、実習生にとってのうまみが目減りしているのです。先進各国で、労働力の争奪戦が進行しており、アジアの実習生にとって、日本の魅力が相対的に薄れていることは間違いありません。
わが国の賃金水準は、1990年代からほとんど上昇せず、男性労働者では2001年の水準をいまだに超えていないのが現状です。この間、人手不足の時期もありましたが、その人手不足が賃金上昇に結び付くことはありませんでした。
本来であれば、人手不足の業界は、賃金水準を引き上げることによって労働者を確保するか、機械化などによって省力化を図ることが求められます。しかし、わが国では、人手不足が深刻な業界に低賃金労働者を供給する方法を模索し、結果として賃金を上げなくても人手の確保が可能な状況を、官民で作り上げてきました。安価な労働力を労働市場に供給する制度の一つが、外国人技能実習制度です。
足元、円安と輸入物価の上昇の一方で、国民が少しでも安い商品を求めるデフレマインドは完全には払拭されておらず、そのしわ寄せは、さらなる人件費の抑制に向かう可能性も否定し得ません。
しかし、1人当たりの国内総生産がわが国の10%程度に過ぎないベトナム出身の技能実習生からみて、日本の雇用市場が魅力的に映らないという状況は、深刻にとらえるべき問題です。国外の労働者にとっての魅力が低下するわが国では、雇用の在り方を根本的に見直すことが必要な時期にきているといえましょう。
低賃金労働者を確保することで賃金抑制を図るのではなく、しっかりと設備投資をしてより少ない人材で高い収益を得られる産業構造になることを目指さなければなりません。また、賃金上昇を販売価格に転嫁しても、商品の競争力を落とさないために、より優れた商品を生み出す努力も必要でしょう。
とりわけ中小企業や農業などが大きいウエートを占める地方において、そうした分野の賃金引き上げは、地域経済の持続性はもちろん、各主体の経営存続の観点からも喫緊の課題です。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年11月28日号掲載)
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