食品大手、外食チェーンも活用 キッチンカー、利用広がる
2022.12.12
コロナ禍で外食の自粛が広がったのを機に、飲食店によるキッチンカーへの参入が目立っている。出店コストが低いうえ、柔軟に立地や業態を選べるためで、そうした動きに着目して専用車や出店場所の確保などで飲食店を支援するビジネスも広がり始めた。テイクアウト需要の定着で食品大手や外食チェーンが新規出店に備えたテスト出店に活用、ホテル大手も新開発のメニューのPRに役立てる狙いなどからキッチンカーの利用に動いている。(写真:東京国際フォーラム地上広場の「ネオ屋台村」=東京都千代田区)
初期費用なしで開業
キッチンカーによるビジネスはニューノーマル時代の新たな飲食業態といえ、東京都だけの数字だが、都保険福祉局が9月に発表した食品衛生施設数の速報値によると、6月末時点でキッチンカーは5287台と過去最多となった。
ただ、参入にはキッチンカー、調理設備のほか、キッチンカーを置くことができる販売スペースなどが必要で、小規模な飲食事業者にとってはハードルが高い。
そこで、初期費用などは一切かからない仕組みで、飲食事業者によるキッチンカーの導入から運営までをトータルでサポートするサービスに乗り出したのがハウス食品グループ本社。新規事業として飲食事業者と遊休地を持つオーナーをつなぐキッチンカーのプラットフォームを昨年3月に正式に立ち上げた。
同社は2019年9月から事業可能性の調査検証(フィジビリティーテスト)を実施。平日ランチ時間帯だけの展開ながら、都内8カ所にキッチンカーを設置、46社の飲食事業者が参画し、計3万5000食を販売した(写真)。一層の事業の成長が見込めることから、「街角ステージweldi(ウェルディ)」のブランドで正式提供を開始した。利用する事業者は今年10月時点で累計82社に上るという。
同社の売り上げとなるのは、飲食事業者の1日の売り上げの25%プラス5000円(仕込み場所をレンタルする場合は35%プラス5000円)で、22年には事業規模として月間売上高500万円を目指している。
この秋に、信用金庫や地方銀行などの金融機関と連携して地域活性化を目指す「地域金融でweldi」を開始。地域の金融機関支店前スペース、取引先の地権者が持つ遊休地などを貸し出してもらい、地域に根ざした飲食事業者のキッチンカー出店をサポートする。(写真:「地域金融でweldi」で出店するキッチンカー)
1月からは東京都の城北地区、埼玉県南部を拠点に店舗を展開している信用金庫と連携し、先行して実施。巣鴨信用金庫関連で、これまでに2社が出店しているのに続き、同信金以外での実証実験も進めている。
未出店エリアのデータ得る
飲食事業者のほか、大手の外食企業がキッチンカーを未出店エリアへ出す動きもある。ペッパーフードサービスは3月、モビリティー型店舗を展開する「muuve」(東京)と業務提携契約を結び、「いきなり!ステーキ」の「新たなビジネスの形になり得る」として、キッチンカー事業のスタートを発表した。
キッチンカーで出店することにより、住宅地から都心のオフィス街まで出向き、本格的なステーキをリーズナブルな価格で提供する。来店データや購買データを基にした商圏の再設定や検証のためのテスト出店も可能となる。
帝国ホテルの味
帝国ホテルの味をテイクアウトー。帝国ホテル東京は昨年10月中旬から約3カ月間、休日や年末年始などを除き、新たな試みとして東京・丸の内の東京国際フォーラム・地上広場にキッチンカーを出店した。本年度も7~9月を除き、通年で営業している(下の写真)。
新型コロナウイルス感染症の拡大以来、食事のテイクアウト需要が定着している中で、より多くの人に帝国ホテルの味を楽しんでもらうのが狙い。さまざまな条件があるため場所は固定しているが、今後、条件が整えば地域と連携したイベントなどでの出店も検討しているという。
帝国ホテル伝統のレシピを基に、キッチンカー用にアレンジしたメニューを用意し、週替わりで楽しめる特製カレーやハッシュドビーフ、サンドイッチ、サラダやスープなども用意。そのほか、ホテルオリジナルのチョコレートやフィナンシェも販売している。
担当者は「オープン当初から連日完売になるなど、大きな反響をいただき、ご利用いただいたお客さまからは継続の要望も寄せられた」と話しており、引き続きホテル外で帝国ホテルの味を気軽に楽しめる機会として、メニューの改良や品ぞろえの充実を図りながら活用していこうとの考えだ。
大手の食品関連企業も、新開発のメニューをPR狙いから、いろいろな場所に出店できるキッチンカーの活用に動いている。日清製粉ウェルナは10月、家庭用冷凍スナック「スマートテーブル ミニチュロス」の無料サンプリングに、キッチンカーを導入した。
テレビCMやデジタル広告などのプロモーションも展開しているが、実際にミニチュロスの出来たてのおいしさや、サクッとした食感をより多くの消費者に試してもらう。10月半ばから6日間、東京、埼玉、神奈川3都県の商業施設3カ所で、「ミニチュロス」約1万5000個の無料サンプリングを行った。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年11月28日号掲載)
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