つくる

飢餓撲滅でブラジル・ルラ氏に期待  大統領復帰、成長・福祉の両立に実績  アグリラボ所長コラム

2022.11.12

ツイート

飢餓撲滅でブラジル・ルラ氏に期待  大統領復帰、成長・福祉の両立に実績  アグリラボ所長コラムの写真

 ブラジルの左派労働党のルラ元大統領が、来年11日に政権に返り咲く。1030日の決選投票で現職のボルサナロ大統領を僅差で破った。200310年の在任中に貧困対策や飢餓の撲滅で実績を上げており、ロシアによるウクライナ侵攻などで国際的に飢餓人口が増える中、その手腕に強く期待したい。

 ルラ元大統領は自身も極貧の農家の出身で、家族と北東部ペルナンブコ州からサンパウロ郊外へ移住し、靴磨きなどで家計を助け、中学卒業後は旋盤工として働いた。当時の作業事故で左手小指を切断している。労働組合のリーダーとしてさまざまな弾圧も受けた。

 3選禁止のため大統領を退いた後、収賄事件で有罪判決を受け1819年に580日間収監されたこともある。最高裁判所が判決を取り消したことで政界に復帰し「貧者の味方」として高い人気を維持してきた。今回の大統領選挙の勝利宣言では「喫緊の責務は再び空腹をなくすことだ」と演説し、喝采を浴びた。

 前回政権を担った時は、経常収支を改善して投資を呼び込み、経済成長と福祉政策を両立させる政策を採用し、「ゼロハンガー」と呼ばれる飢餓撲滅策を推進した。

 外交面ではインドなどとともに参加する新興5カ国(BRICS)との連携を重視し、メンバーのロシアや中国との関係を深めた。左派政権だが米国との対立を避け、アマゾンの森林保護など環境政策では欧米と良好な関係を維持した。こうした外交手腕とルラ元大統領の人脈を生かせば、ウクライナ産穀物の輸送ルートの確保や、ひいてはウクライナ情勢の改善に向けて期待できる。

 前回のルラ政権には、もう1人立役者がいた。ゼロハンガーのプログラムを描いた農学者のジョゼ・グラジアノ・ダ・シルバ氏だ。2003年に食料安全保障・飢餓撲滅特命相に起用され、プログラムの実行を任され、280万人以上が貧困から脱したとされる。

 この実績を評価され、11年に国連食糧農業機関(FAO)事務局長に選出され、ゼロハンガーを国連の持続的開発目標(SDGs)の2番目の目標として盛り込むなど、19年まで飢餓撲滅に向けた国際的な活動を指導した。

 こうした経緯は日本ではあまり知られていないが、食・農分野での国際的な貢献を2年ごとに顕彰している「食の新潟国際賞財団」(池田弘理事長)は、第7回「食の新潟国際賞大賞」にグラジアノ前事務局長を選んだ。

 新型コロナの感染拡大やウクライナ戦争の影響で飢餓人口の増加に拍車が掛かる中、世界の飢餓撲滅に向けた日本からのメッセージとして受け止められることを期待したい。

 第7回「食の新潟国際賞大賞」は、日本栄養士会会長の中村丁次・神奈川県立保健福祉大学学長も同時に受賞した。授賞式は1129日に、新潟市の朱鷺メッセで開かれる。(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)

関連記事:FAO前事務局長と日本栄養士会長に大賞

最新記事