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事業者収益は切り離し議論を  動き出したローカル鉄道再編  藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員

2022.09.19

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 ローカル鉄道が危機的状況にあることは、昨年12月にも「あるべき姿、議論を 大量廃線時代を前に」との題で、路線再編の動きが顕在化する可能性を指摘しました。(写真はイメージ)

 今年4月にJR西日本が、7月にはJR東日本が、乗客数が極端に少ない線区の経営状況を公表しました。運行エリア内に大都市を抱え、比較的経営状況は堅調と考えられてきた両社が、赤字路線の維持が困難な状況にあることを明らかにしました。コロナ禍によって運輸収入が激減し、赤字ローカル路線を永続的に維持していくことが難しくなってきたということです。

 国土交通省は、JRのこうした動きに呼応する形で、有識者会議(鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティーの刷新に関する検討会)を設置し、今後のローカル鉄道の在り方に関する議論を進めてきました。

 同会議は7月、利用者が一定の基準を下回る線区については、沿線自治体、県およびJRなどからなる特定線区再構築協議会という協議の場を設けることを提言しました。協議会での検討課題は、鉄道の徹底的な活用や競争力の回復はもちろん、代替交通手段となるバスなどへの転換などとしています。

 確かに、JR全社でみると、鉄道による輸送を路線バスに切り替えることが適当とされる需要水準を下回る路線はすでに半数を上回っており、すべてのローカル鉄道を維持することは現実的ではないかもしれません。一定の赤字の計上がみえているローカル鉄道の存続が、JR各社の経営をボディーブローのように痛めつけていることも確かでしょう。

 大量輸送を目的とした鉄道運行が、人口減少が進む地域の実状にそぐわなくなってきている場合もあり、鉄道を含む新しい交通体系の模索が必要となりつつあるのです。

 また、結果的にJRから切り離したことが奏功したとみられる事例も出てきています。JRから事業を引き継いだ第三セクターが、大胆な観光列車の導入やきめ細かいサービスの提供で、利用者の獲得につなげている事例のほか、バスに切り替え、住宅エリアを丁寧にカバーすることで、高齢化した地域に適したサービスを提供している例もあります。

 しかし、ここへ来てのローカル鉄道大量廃線の動きには、一抹の違和感が拭えません。そもそも大都市を運行エリアに抱える両社の経営悪化は、コロナ禍による大都市での利用者の減少の影響が大きかったと考えられます。JR西日本の2021年3月期決算によれば、運輸収入の減少額(前期比)の89%は、もともと収益性の高い新幹線と近畿圏内の在来線によるものでした。赤字路線の多い近畿圏外の在来線の寄与は11%に過ぎません。

 将来に向けた新しい交通体系の模索は、一時的な鉄道事業者の収益状況と切り離して考えるべきです。地域交通体系の議論にあたっては、長期的な視点に立って、より多くのステークホルダー(利害関係者)を巻き込みながら、地域の将来にとってベストなかたちを模索することが必要です。

(Kyodo Weekly・政経週報 2022年9月5日号掲載)

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