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あるべき姿、議論を  大量廃線時代を前に  藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員

2021.12.20

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あるべき姿、議論を  大量廃線時代を前に  藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員の写真

 コロナ禍が一段落し、出張する機会も増えてきました。先日、中国地方の山間部に出向いた折、すでに廃線となった三江線の遺構をみかけました。三江線は、広島県三次と島根県江津の間の100㌔超を、江の川に沿って結ぶJR西日本の鉄道で、2018年3月をもって営業運転が終了されました。これだけ長い路線が丸ごと廃線となった例は珍しいでしょう。

 三江線は、国鉄が分割民営化されて以降の30年間だけでも、乗客が10分の1にまで減少するなど、絶えず廃線が取りざたされてきました。乗客の減少に加え、江の川沿いに敷設された鉄路が、大水によって流されるような被害が頻発していたことも、廃線やむなしの機運を醸成したものと思われます。

 鉄道が廃止となり、地域住民の生活にもマイナスの影響が出ているのではないかと考え、廃線から3年半が経過した今秋、沿線住民に三江線の話を改めて伺ってみました。高齢者を中心に、困っている人が多いという答えを予想していましたが、反応は「困っている人はそれほど多くないんじゃないかなぁ」と、意外なほどあっさりとしたものでした。乗客が減ったとはいえ、学生や高齢者など、日ごろ利用していた人もいたはずですが、影響は限定的というのが地元の反応でした。

 廃線となる鉄道の地元の事情はさまざまで、猛烈な存続運動がおこることもありますが、外野である筆者が心配になるほど、粛々と廃線を受け入れる地域もあります。すでに沿線住民の人口が減ってしまい、反対運動のうねりを起こすに至らない場合もあります。また、自動車中心のライフスタイルが確立してしまい、鉄道が廃線となっても当面の生活に支障がないという人が多いのも事実です。

 高速道路や高規格道路が隅々にまで張り巡らされ、今さら待ち時間を気にしながら、鉄道とバスを乗り継ぐような生活には戻れないという話も聞きます。

 JR北海道の留萌線も廃線が取りざたされる路線の一つです。すでに留萌線の一部区間(留萌~増毛)は2016年に廃線となりました。18年に留萌の街で地域住民に話を伺った際にも、路線存続を訴える声は小さく、それ以上に道央自動車道に接続すべく整備が進められていた深川・留萌自動車道への期待が聞こえてきました。

 コロナ禍によって鉄道各社の収益は急速に悪化しており、この後各地で一斉に赤字路線の存続問題が噴出する可能性があります。路線1本1本の収益性だけをみていけば、多くの路線の存続が難しいことは火をみるより明らかです。存続を願う声があったとしても、自動車の利便性の前にかき消されがちです。

 一方で、都市からの移住者誘致などを考えると、駅や鉄道の喪失はマイナス要素となります。現在、わが国においては、鉄道は民間企業の持ちものとなっていますが、国や地方自治体の財源をつぎ込んで整備を進めてきており、地域住民のみならず国民全体の財産という一面も持っています。

 大量廃線時代の到来を前に、ローカル鉄道のあるべき姿について国民的な議論を行い、存廃の基準や手続き、公共による支援のあり方などをあらかじめ明確にしておくことが必要ではないでしょうか。

(Kyodo Weekly・政経週報 2021年12月6日号掲載)

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