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「菜食主義の肉屋」とは  プラントベース食品が多様に  畑中三応子 食文化研究家

2022.08.22

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「菜食主義の肉屋」とは  プラントベース食品が多様に  畑中三応子 食文化研究家の写真

 植物由来の原料だけで作った「プラントベース」の食品を取り入れる外食店が増えている。

 定食チェーン「やよい軒」は、豚肉を大豆ミートに置き換えた定食3種を6月から提供している。「フレッシュネスバーガー」では、3月からビーフパティバーガーが大豆パティに無料で変更できるようになった。

 シンガポール産プラントベースチキン「ティンドル」がビアダイニング「シュマッツ」中目黒店(東京都目黒区)のメニューに期間限定で登場していると聞き、試食した。(写真:ティンドルを使った唐揚げとハンバーグ=筆者撮影)

 シンガポール政府は現在、約10%の食料自給率を2030年までに30%まで引き上げることを目標に、テクノロジーを活用した食品研究開発に力を入れ、アジアにおける代替肉生産の先進国になっている。「チキンライス」が国民食といわれ、鶏肉にうるさいシンガポールで生まれた代替チキンがどんな出来栄えか、興味を持っていた。

 プラントベースチキンは鶏肉にくらべ、使用する水が82%、土地が74%、温室効果ガスの排出が88%も削減できるという。

 主原料は大豆、小麦グルテン、ココナツ油、オーツ麦食物繊維、小麦でんぷんなど。カロリーとたんぱく質量は本物の鶏肉と同程度で、コレステロールは含まない。調理のしやすいペースト状で、和洋中どんな味つけにも合うそうだ。「シュマッツ」では香辛料をたっぷり使ってドイツ風にアレンジした唐揚げと、ハーブをきかせたハンバーグに仕立てている。

 その味はというと、知らずに食べたら疑いなく鶏肉だと思っただろう。両方ともうま味が濃く、かみごたえもあり、実に肉っぽい。ハンバーグは食感がすり身に近く、しっとりとしているのも魅力だった。

 オランダの代表的なプラントベース専門企業「ザ・ベジタリアン・ブッチャー」の製品が食べられる同名のカフェも訪ねてみた。訳すと「菜食主義の肉屋」という名前の通り肉屋を併設して植物由来のビーフ、ポーク、チキンを販売している。

 東京・池袋にある地下1階の店内に入ると、LEDライトを使ってハーブや野菜が水耕栽培されており、驚いた。摘みたてをカフェの料理に使い、余った場合はフードシェアリング用の冷蔵庫に入れられ、客は自由に無料で持ち帰ることができる。余剰食材を無駄にせずに分かち合う「シェア冷蔵庫」はヨーロッパで生まれ、日本でも少しずつ広がりつつある取り組みだ。

 ここではプラントベースポークのソーセージを試した。主原料は繊維状大豆たんぱく、小麦たんぱく、タマネギ、菜種油、卵白、でんぷんなどで、100㌘当たり153㌔㌍と畜肉ソーセージよりかなり低く、たんぱく質量は15㌘とやや高めで脂質はぐっと少ない。が、見た目と味は完璧なまでに肉。

 国産の大豆ミートがたんに「ミート」なのに対し、海外製品はチキン、ポーク、ビーフと種類別なところに肉食に対するこだわりと執念の違いを感じる。ならば、日本らしくプラントベースでウナギのかば焼きやマグロのトロが再現できないだろうか。そんなことを妄想した。

(Kyodo Weekly・政経週報 2022年8月8日号掲載)

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