食文化を未来へ 守りたい海、魚 佐々木ひろこ フードジャーナリスト(Chefs for the Blue代表)
2022.08.08
私が海の現状と初めてまっすぐ向き合ったのは6、7年前のこと。魚の激減という現実を突きつけられ、そのショックの大きさをきっかけに学び始めたのだが、じつはそこでまず感嘆したのは、日本の海が本来持つポテンシャルの大きさだった。(写真:京都のさばずし)
国土面積でいえば世界で38位、という決して大きいとはいえない国でありながら、いったん海に目を向けてみれば全く異なる景色が見えてくる。日本が持つ海の面積(排他的経済水域/EEZ)は世界で6位と大きく順位を上げ、さらに深さ、つまり「水の量」を考えた体積でいえば第4位と、「海洋立国」を裏付ける数字が見えてくるのだ。
また「量」だけはでなく「質」も特筆に値する。日本の周りには寒流、暖流がそれぞれ2本ずつ、計4本の海流が流れており、北からはサケ類やタラ類、サンマなど、南からはサバやイワシ、アジなど、季節ごとに多くの回遊魚を運んできてくれる。
さらに、たくさんの山から多くの急流に乗り流れ落ちるミネラルによって、河口に豊かなプランクトンが湧き、それを食べる小魚やそれらを追う定住型の大きな魚たちが増えてきた。
日本の海には、世界の約1万5000種の海水魚のうち約25%にあたる約3700種が生息するという。南北に長く、岩礁や砂地、遠浅や深海など環境多様性に満ちた海と、山と川とが連携した大きな循環が、いにしえの時代から脈々と連なる豊かな生態系を育んできたのである。
東京の柳川飯(アサリ)や高知のカツオわら焼き(カツオ)、名古屋のひつまぶし(ウナギ)。富山のかぶらずし(ブリ)や愛媛のじゃこ天(エソなど)、北海道の石狩鍋(シロザケ)...。日本の海の豊かさは、各地の伝統料理や郷土料理のラインアップを見渡すだけでも明らかだろう。
しかしこうして日々のおかずに行事食にと活用され、過去には当たり前のようにそこにあったそれらの魚は今、大きな危機にさらされている。ほとんどの日本料理のベースであるだしの原料、昆布やかつお節、いりこ(カタクチイワシ)にすら、危険信号がともっている状態だ。
私たちの食文化を未来につなぐためには、何より豊かな海の存在が欠かせない。このまま何もせず、魚が海から消えてしまってからでは取り戻せない。改めて、皆で守っていかねばならないと思う。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年7月25日号掲載)
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