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観光客の税負担を考える  宿泊税率低い日本  沼尾波子 東洋大学教授

2022.07.25

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 先日、長崎市の「宿泊税」導入について、国の同意が得られたという報道が流れた。この宿泊税は、2002年に東京都で導入され、少しずつ広がりをみせ、今回の長崎市は、全国の自治体で9番目となる。

 日本では自治体が独自の税を課す事例はあまり多くはない。だが歴史をひもとくと、戦後、財政難の折、全国各地で、実に雑多な税が課されていた時期がある。犬税、荷車税、自転車税、繭取引税、ミシン税など、その数は100種類以上にも及んだ。行政サービスを確保するための財源調達が難しかった時代、自治体では、いわば、税源を模索しながら、行政サービスを賄おうとしたとみることもできる。

 その後、次第に国から地方自治体に対し、補助金や地方交付税などが交付されるようになり、こうした「雑税」は次第に廃止されていった。自治体の中でも、独自課税を行うのは、その地域に特別な財政需要が生じている場合などに限られていく。

 例えば砂利採取場や原子力発電所などがあり、住民の健康や安心安全への対応が求められることを理由とした独自課税があげられる。

 2000年に入り、自治体による独自課税の選択肢が広がったことをきっかけに、遊漁税、産業廃棄物税など新たな税が誕生した。現在では、おおよそ20種類の独自課税が各地で導入されている。

 最近、観光客など、域外からの流入者に対し、独自課税を模索する自治体が少しずつ増えてきた。2002年に東京都が宿泊税を課したのを皮切りに、現在、大阪府、福岡県、京都市、金沢市、北海道倶知安町、福岡市、北九州市で宿泊税が導入されており、さらに先述の通り、来春より長崎市でも導入が決まった。

 宿泊以外にも、地域への来訪に対し、岐阜県では乗鞍環境保全税が、沖縄県伊是名村、伊平屋村、渡嘉敷村では環境協力税が、さらに座間味村では美ら海税が導入されており、さらに広島県廿日市市では、宮島訪問税の導入が決まった。

オーバーツーリズム


 アフターコロナ時代の海外からのインバウンド拡大とともに、騒音やごみ処理、公共交通などの混雑といったオーバーツーリズム問題への対応が求められるようになる。環境や景観の保全、公共トイレの設置などの対応に対し、それに要する負担を、来訪者に求めるという考え方は有効である。

 海外では、観光客に対して応分の負担を求める対応が図られている。公共トイレはチップ制であり、宿泊税についても、ハワイは宿泊料の9.25%、ベルリンは5.0%、ローマでは宿の星の数により1泊あたり3~5ユーロ(約420~700円)を徴収している。

 これに対し、日本の宿泊税の税率は極めて低い。東京都の場合、1泊1万5000以上の宿でも税負担は200円、1泊1万円以上の宿で100円である。

 新型コロナウイルス感染症の収まりとともに、国内外の観光客も少しずつ増えるだろう。さまざまな行政サービスの利用に対し、応分の負担を求めるという考え方に立って、来訪者の税負担のあり方を考えてもよいように思える。

(Kyodo Weekly・政経週報 2022年7月11日号掲載)

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