栄養素で考えたい食料自給率 タンパク質に着目する北欧 アグリラボ所長コラム
2022.07.10
ウクライナ戦争や新型コロナの感染拡大で食料自給率に対する関心が高まり、政策課題として参院選の焦点の一つにもなった。しかし、相変わらず「先進国最低の37%」という数値が独り歩きし、一般論として国内生産の重要性が認識されても、具体的な議論が深まらない。(写真:デンマークの穀倉地帯。タンパク質の完全自給を目標に産官学が連携して戦略を推進している)
37%(2020年度)という数値は、供給熱量に着目したカロリーベースであり、食料の確保を考える上ではあまり意味がない。自給率は国内で調達できる割合を示しているだけで、食料の過不足とは直接の関係がない。輸入の途絶や制限で供給そのものが減れば高くなる一方、貿易が高度化して食生活が多様化すると、自給率の押し下げ要因となる。
さらに、カロリーベースだと、コメなど穀類やイモ類の比重が大きくなり、野菜や花などカロリーが低い農業生産が過小評価される。
こうした欠点を補うため、農林水産省はカロリーベースの他に、生産額ベース(20年度=67%、以下同)、食料国産率(供給熱量ベース=46%)、食料自給力指標(1722㌔㌍~2500㌔㌍)を公表しており、これら複数の指標を総合的に評価することが重要だ。ただ、いずれも周知されている指標とは言い難い。
特に自給力指標は、1日当たり1人が必要とするエネルギー(2168㌔㌍)を国内で充足できるかどうかの潜在力を示す重要指標だが、「現状の生産力を維持」など前提となる仮定条件が多いのと、イモ類への作付け転換など計算が複雑すぎてほとんど理解されていない。
一方、国際的には米麦など穀物を国内でどれだけ供給できるかを示す穀物自給率が重視されている。日本は28%(18年)と低水準だが、農業が重要産業であるオランダ(10%)、ポルトガル(21%)やイスラエル(5%)よりは高く、「先進国最低」ではない。
穀物自給率が重要な理由は、食用だけでなく、余剰穀物を家畜の飼料として転用することで穀物需給を自国内で調整できるからだ。ロシア(184%)、フランス(176%)、米国(128%)、インド(115%)など大国は軒並み高く、中国(99%)も100%以上の維持を国策としている
穀物自給率は「パンと肉」を自力で供給できる目安でもあり、消費者の視点からも重要だ。酪農大国のデンマーク(93%)は、家畜飼料を南米産の大豆に依存する体質から脱却することを目指し、食用・飼料の両面でプロテイン(タンパク質)を完全自給するため、産官学が連携した戦略を2018年から推進している。北欧など穀物自給率が低い国では、同様の動きが出ている。
日本にも「消費者にとっては栄養素ごとの自給率が関心事」(品川万里福島県郡山市長)と指摘する人がいる。タンパク質は日本人の場合、1日に1人65㌘ほどの摂取が必要とされている。このうちどれだけを自給できているのだろうか。糖質、脂質、ビタミン、ミネラルはどうなのか。
毎年でなくてもよいから、栄養素ごとの自給率を政府が試算・公表すれば、消費者目線の自給率として認識され、食料確保に向けた議論が「自分事」として深まるだろう。(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)
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