農村行脚のすすめ カギ握る1人区動向 小視曽四郎 農政ジャーナリスト
2022.02.07
今夏の参院議員選挙は、自民党・岸田文雄総裁、立憲民主党・泉健太代表の命運がかかる。
参院選を前に、与野党双方のトップにはぜひ、農村・地方行脚をおすすめしたい。喧騒の都会を離れ、地酒片手に岸田氏念願の「車座」談義で生の農家の苦労や愚痴に、得意の聞き耳を立ててはいかがか。
勉強になるのは間違いないし、党首の情熱が地方の人々にも伝わるだろう。
参院選のたびに言われるが、ポイントは改選124議席中74の選挙区のうち32の1人区の勝敗だ。前回2019年選挙で立民、国民民主党、共産党などの共闘で野党が10勝22敗となり、改憲を狙った安倍晋三自民党の出鼻をくじいた。16年の前々回選挙も11勝21敗。野党が勝ったのは東北や信越など農村県で、背景に農政への強い反発があったことは言うまでもない。
当時、政治学者の山口二郎・法政大教授は環太平洋連携協定(TPP)や日欧経済連携協定(EPA)、米国からの農産物市場開放圧力をあげて「農業を基幹産業とする地方は、地域社会の将来に対する不安が高まっている」と指摘。安倍1強の官邸主導農政への反発、嫌悪だった。
安倍、菅義偉政権下の農政に対する評価は「農業の現場の思いはかつてとほとんど変わってはいない」(全国紙記者)。カギとなる1人区の有権者動向は、自民党の農政への不満が根強く、どっちに転ぶか分からない、というわけだ。
しかし、「農業や農政は岸田、泉両氏とも全くの門外漢」(同)と見られている。特に新自由主義からの転換を提起し、農家の間に変化を期待させた岸田首相だが、その実、米価暴落への効果的で積極的な対応はない。
首相が掲げた規制改革会議の「改組」は、農業分野のワーキンググループを、新設の地域産業活性化ワーキンググループに構成メンバーをそのまま移行しただけだ。22年度予算編成では、看板政策のデジタル田園都市国家構想の一環として農業大学校の学生らを農業デジタル分野の人材として今後5年間で3万人養成する、などを挙げたが、「評価できるのは新規就農対策くらい」(農業協同組合(JA)の全国連合会の職員)で期待外れの感は否めない。
一方、立民など野党はどうか。こちらはさらに動きが鈍い。かつて民主党が大勝をした07年参院選では当時小沢一郎代表が「すべての農民を守る」と農村や地方重視の姿勢を示し1人区だけを徹底して行脚。その結果、当時29の1人区は野党が23勝、政権奪取の土台を作った。
高齢化で集落座談会の開催もままならない村々に「首相や党の代表が来れば喜ぶし、農家や地方に目を向けている、となって株は上がることはあっても下がることはない」(東北地方のJA関係者)。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年1月24日号掲載)
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