在留外国人旅行に期待 母国語での情報発信効果も 郭秋薇 アジア太平洋研究所研究員
2021.11.15
2019年に関西国際空港の外国人入国者数は開港以降初めて年間800万人超となったが、コロナ禍によりインバウンド需要はほぼ消滅し、いまだに回復の見通しが立たっていない。
しかし、人間には旅をする本能があるといわれている。ワクチン接種の普及と治療薬の開発によりパンデミックが克服されれば、インバウンド需要は必ず回復する。
観光庁や多くの観光事業者は、既にポストコロナを見据えたインバウンド誘致戦略の策定を進めており、日本に長期滞在する在留外国人を対象としたプロモーションや戦略策定の動きが目立ってきた。
例えば、JR東日本とJR九州はそれぞれ、在留外国人向けに新幹線や特急などを自由に乗り降りできる特別企画乗車券を期間限定で発売した。
従来このような大幅に割引した乗車券は短期滞在の訪日外国人のみが対象だったが、コロナ禍で訪日外国人観光客の姿が消えた今、プロモーションのターゲットは在留外国人に移行したようである。
在留外国人向けのプロモーションに期待される効果は主に三つある。
まず、在留外国人の市場開拓である。総務省統計局の「人口推計」によれば、2111年以降減少が続く日本人人口とは対照的に、在留外国人人口は12年以降7年間連続で増加し、19年に過去最多の293万人となった。増加傾向の在留外国人は今後も成長が期待できる市場である。
次に、在留外国人から母国への情報発信の効果である。観光庁の「訪日外国人の消費動向」(2019年年次報告書)によると、訪日外国人が出発前に得た旅行情報源で役に立ったものの上位2位は、「SNS」と「個人のブログ」であるという。
事業者側が発信した公式情報よりも、SNSやブログに投稿された母国語による情報と実体験に基づいた口コミの方が参考にされている。コロナ禍で誘客活動が制限される中、在留外国人による発信が訪日旅行の潜在需要に働きかける効果が期待される。
最後に、在留外国人を調査対象にすることで、今後のインバウンド戦略の策定について重要なヒントが得られる。在留外国人は日本語による情報や日本の事情に詳しく、また「モノ消費」より、食・自然・文化を体験する「コト消費」を重視する傾向がある。
さらに、地方の風習、歴史や伝統産業など、地域色が強い日本文化も理解し、楽しむことができる。
これらの特性は訪日外国人の6割以上を占めるリピーターと共通している。在留外国人の視点を借りて、いま一度日本の魅力を見つめ直すことで、訪日外国人のリピーターの満足度を向上させ、リピーターを持続的に獲得していくための戦略策定のヒントが得られる。
また、外国人であると同時に住民である在留外国人の声は、訪日外国人客と地域住民の双方が満足できる観光地域づくりにも役立つ。
旅行好きな在留外国人である筆者にとって、これまで訪日外国人にしか享受できなかった割引が利用できるのはうれしいことであるが、それ以上に、インバウンド戦略が再考され、持続可能なインバウンド観光が実現されることを期待したい。
(Kyodo Weekly・政経週報 2021年11月1日号掲載)
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