ダム管理パラダイムシフトに挑む JAPIC、水力発電増強を提言
2021.11.29
日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)は今年6月、ダムへの「高度運用」の導入による、激甚な水害への治水対策強化とカーボンニュートラルを目指した水力発電増電に向けた提言をまとめた。
気候変動に伴う未曽有の降雨現象は、全国に激甚な水害をもたらしており、実効ある治水対策の構築と、地球温暖化対策としてのカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)は喫緊の課題となっている。
JAPICでは、この課題に向けた検討を進め、既設ダムに対して降雨予測などの先進的科学技術を用いた「高度運用」を導入することで、治水強化と水力発電増電を目指す提言をこのほどまとめた。(写真はイメージ)
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ダムを「空」にして洪水をため込む治水機能と、ダムに「貯留」した水を発電に使う利水機能は利益相反ともいえる関係にある。
これまでは、治水と利水それぞれの計画をもとに評価し、貯水池の「空」と「貯留」の固定的境界である「制限水位」を設定し、これをルールとして両方の目的を達成してきた。
今回の提言は、この「制限水位」に対し、アンサンブル手法などによる先進的な降雨予測技術を導入したダムの「高度運用」を新たな調整ルールとして提案する。
具体的には、洪水が予測されるときは、事前放流により現行の制限水位以下に水位を下げ、「空」の容量を増やして治水強化を図り、洪水の予測されない平常時は制限水位以上に「貯留」することで発電増電を図るものである。
さらに、ダムの放流管などの新・増設によるダムからの放流可能量強化により、事前放流を安定的な治水効果に結びつけるとともに、平常時の「貯留」を増やすことで、一層の増電が期待できる。
「全体最適」
これまで、河川流域の地形やダムの構造などを基本に、観測された気象・水文データなどに基づくダムの計画や運用ルールを策定し、治水・利水を進めてきた。
「高度運用」は、従来のダムごと、目的ごと(治水、かんがい、上水、発電など)の「個別最適」そして「利益相反」を超える発想のもとで、これまでの観測データに加え、先進的降雨予測技術に基づく新たなデータを用いることにより、ダムの一体的な運用による「全体最適」を目指すものである。デジタル空間における「全体最適」による分析・評価により、従来の制約条件や閾値を超えた価値を創出し、この価値のフィジカル空間での具体化を目指す、パラダイムシフトへの挑戦である。
高度運用は新たな取り組みであり、その効果や評価のデータやシミュレーションは限られている。
このため、高度運用による治水や発電の効果、可能性のあるダムなどの検討を行った。
(治水効果)地球温暖化2度上昇では、河川の洪水流量が現計画に対し1.2倍となるという国土交通省の分析をもとに高度運用の可能性を検討した。
一級水系を対象に2割増の洪水量を貯留により対応する可能性を検討すると、現在の洪水調節容量約50億立方㍍に対し、新たに約96億立方㍍の貯留が必要になる。
ダムへの「高度運用」
これに対し、現在の事前放流による約45億立方㍍に加え、1級水系のダムでの高度運用による貯留増加量と現治水計画に基づき今後、整備されるダムの容量などを合わせることにより、貯留量総量での対応の可能性が見えている。
▼水力発電強化 国などが管理する約70の多目的ダムでの高度運用の検討により、おおむね15~20%増電の可能性がある。今後、規模や特性の異なるダムに検討対象を拡大するとともに、放流管・発電機などの新・増設による増電効果などの評価が期待される。
▼事業の特徴 今回の提案は、本体の建設や補償などの大規模投資が完了している既設ダムの高度運用と放流管の新増設などが中心である。
現在、治水と発電のいずれかを目的とし、高度運用の可能性のあるダムは約1300あり、全国に展開している。個々のダムの規模や特性を踏まえた検討が必要になるが、大まかな試算として約1000のダムを対象とした場合、放流管一基約80億円とすると、全体で約8兆円規模となる。
また、工事期間はおおむね3~4年、日本の有する施工技術や放流管・発電機などの投入で対応できるメリットがある。
ダムへの「高度運用」の導入による、治水と水力発電の新たな資源の創出により、強靱な国土づくりとカーボンニュートラル、適応策と緩和策につなげることが期待される。
(Kyodo Weekly・政経週報 2021年11月15日号掲載)
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