再利用や節約で使用抑える 雨水は生活用水の要 連載「アフリカにおける農の現在(いま)」第17回
2021.10.18
今回はアフリカの農村で、水源から得た水をそれぞれの世帯が工夫して活用する状況を紹介し、水の利用について理解を深めていきたい。(写真:川で洗濯をする女性たち=モザンビーク、2019年10月3日、近藤加奈子撮影、以下同)
生活を営む上で、水を必要とする場面は多々ある。世界保健機関(WHO)は1日に必要な水の使用量を、1人当たり20㍑としている。これは、20㍑を確保できれば、飲み水や調理など生活していく上で必要最低限の水を賄えることを意味している。
さらに、1人1日当たり50㍑以上確保することができれば、病気にかかるリスクが低くなると言われている。家庭内の健康や衛生を維持するためには、飲み水や調理などに必要な分だけでなく、洗濯や水浴び、掃除などに利用する水も十分確保することが重要なのである。
しかし、日本のように居宅内にいくつかの水道の蛇口が設置され、好きな時に好きなだけ水を得られる状況と異なり、前回の記事でも言及したように、アフリカの農村において水を得るという作業は決して容易ではない。
桁違いの平均使用量
国別の水使用量のデータによると、日本に住む私たちが1日に使用する水の量は平均約186㍑とされ、この数字は世界の平均使用量の約2倍にもなる。一方で、モザンビークの人びとが1日に使用する水の量は平均約36㍑とされる。調査村の複数の世帯の水くみ状況を調べたところ、多くの世帯において家庭内で利用できる水の量は、さらに少ないことが分かった。
水をくむ水源までの距離や待ち時間によっては、1日のほとんどを水くみ作業に費やすこともしばしばあり、確保できる水の量は限られる。水くみが大変な労働であるが故に、農村の住民たちは水の貴重さを強く意識せざるを得ない。
調査した世帯の中で、最も採水する量が少ない世帯は、1人1日当たり13㍑であった。アフリカの多くの村では、水くみは子どもを含む女性の仕事と決まっている。調査した村でも、世帯において水くみを担う女性や女児の数に採水量が左右される。
利用できる水くみ容器の多さ、自宅から水源までの距離の近さなどによっても、採水量にはばらつきがみられた。採水量が少ない世帯は、皿洗いや水浴びを小川などで済ませたり、居住区から数キロ離れた水量が多い川まで洗濯物を持っていったりするなど工夫することで、家庭内で必要となる水の需要を抑えていた。
(食器を洗う女性=2019年9月19日)
カスケード利用で消費抑制
村では、水の再利用もみられた。日本では風呂の水を洗濯に再利用することがあるが、モザンビークの農村のある世帯では、食事前に手洗いに使った水を皿洗いに再利用し、その水をさらに庭にある果樹への水やりに利用していた。
このように資源を1回だけの使い切りにするのではなく、利用によって下がった質に応じて何度も利用することを「カスケード利用」という。それぞれの用途に使用する水量は数リットルと少なく、節水量も微々たるもののように感じられるが、それでも住民たちはできるだけ水の消費量を抑えようと努めていた。
手押しポンプからの排水や、水くみ容器を洗った後の水を貯め、利用する様子がしばしば見られた。この水は飲み水などの家庭用には利用できないものの、レンガ造りや畑や果樹への水やりに活用される。さらに、雨季には雨水を貯めて利用する様子も見られた。調査地では農業が主に天水に依存しているため、雨水は欠かせない。
雨季の間、畑仕事に従事するために村から離れ、畑で生活することが多い村の人びとは、近くに手押しポンプなどの水源がないため、トタンやビニールを用いて容器に水を貯めており、雨水は生活用水の要にもなっている。このような事例から、人びとは水源から得られる限られた水をできるだけ有効活用しようと、さまざまな営みをしていることが分かる。
(手押しポンプから流れた水を貯め、レンガ造りに使う=2017年8月11日)
認識したい有限性、水源の価値
これまで3回にわたり、モザンビークの農村を事例に現地の水利用について見てきた。アフリカの村落部では、国際機関が定める「安全な水」の安定的な供給に課題がある中で、そこに住む人びとは地域にある多様な水資源を使い分けたり、日常生活の中で限られた水を無駄なく効率よく利用したりすることで、日々の水に対する需要に対応していると考えられる。
今日の日本では、遠くの水源から水道管を通して水を引いてきており、利用する水源に意識を向けたり、水の有限性を認識し、限られた水をいかに使うのかということについて考えたりすることはほとんどないだろう。利用する水源の物理的な距離が開くにつれて、私たちの水への関心も希薄になってしまったように感じる。
しかし、今後、自然災害の頻発や水道管の老朽化などの問題によって、清潔で十分な水を得られることが当たり前ではないことを実感する日が来るかもしれない。水道が断水した場合、身近にある川や池などの水源の存在は大きな可能性を秘めている。
アフリカの農村の水利用を知ることは、地域の水源の価値を改めて認識するとともに、どのような水源が何に適しているのか、そしてどのように水の利用と節約について工夫すべきなのかについて、私たちの関心を呼び起こすきっかけになるかもしれない。
近藤 加奈子(こんどう・かなこ)京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻
高橋 基樹(たかはし・もとき)京都大学教授、神戸大学名誉教授。京都大学アフリカ地域研究資料センター長。元国際開発学会会長。専門はアフリカ経済開発研究
連載「アフリカにおける農の現在(いま)」では、アフリカの農業と食の現状を、京都大学の高橋基樹教授が若い研究者とともに報告します。
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