用途で水源使い分け 水質や労力から選択 連載「アフリカにおける農の現在(いま)」第16回
2021.09.24
アフリカの村落部では給水施設は十分に普及しておらず、利用し続けるには課題があることを前回報告した。一方で村落部の人びとは、給水施設が建設される前から、地域にある川や池、雨水などを利用して生活を営んできた。時には川の流れを変えたり、手掘り井戸を作ったりするなど、多様な水資源を利用し管理することで、乾季や干ばつにも耐えてきたのである。(前回)
川や手掘り井戸など地域に親しまれてきた水源は、先進国や国際援助機関からは「安全ではない」としばしば否定されてきたものの、給水施設だけでは補えない住民の水需要を支えていると考えられる。今回は村落部に住む人びとが、給水施設だけでなく地域にある多様な水源をいかに利用し、生活に必要な水を得ているのか、モザンビークの農村を事例に紹介する。
(写真上:水を運ぶ子ども=モザンビークの村落部、2017年6月19日、近藤加奈子撮影、以下同)
手押しポンプ依存できず
アフリカ東部にあるモザンビークは半乾燥地域に位置しており、1年は5月から11月までの乾季と、12月から4月までの雨季の2つの季節に分かれている。現地調査を実施した農村は、給水施設を利用できる人の割合が、国内でも低い地域の一つである。村には政府と国際協力機構(JICA)によって、手押しポンプが導入されていた。
しかし、村の住民の半数以上が手押しポンプ以外の水源から水を採取しており、手押しポンプを利用している住民も、他の水源から水を採っていた。住民が利用している水源を調べたところ、村内には小川や手掘り井戸、泉、ダム、雨水など、多様な水源が存在していることが分かった。
(小川(左)、手掘り井戸(右)からの水くみ=2019年10月)
手押しポンプは居住区の中心にあり、利用者は年々増加している。手押しポンプの維持や管理にはしばしば問題が発生するものの、利用している住民は「手押しポンプの水はお腹を壊さない」と、水質を高く評価していた。
しかし手押しポンプはくみ続けると地下水位が下がり、より深くから水をくむことになるため、ポンプを押すには徐々に強い力が必要になっていく。できるだけ早く水をくもうと朝から利用者が殺到し、手押しポンプの周囲には水くみ待ちのバケツが多数置かれ、水をくむまでに2時間近く待つことになったり、順番をめぐっていざこざが発生したりすることもある。
(手押しポンプの周りに置かれたバケツ=2019年10月24日)
村にある手押しポンプは、誰もが満足するまで利用できるものではなく、住民の多くはその水だけに依存していては生活できない。このような状況の中で、多様な水源の存在が住民たちの安定した生活を支えていると考えられる。
経験生かし水源使い分け
住民は日常的に、飲用や調理、皿洗い、洗濯、水浴びなどに水を使っている。その中で飲用や調理など口から取り込む水は、健康に直接的に影響を及ぼすため、人びとは慎重に水源を選んでいる。化学的な水質検査は実施されていないものの、自らの基準に従い、どの水源が飲用に適しているのか、または適していないのかを判別している。
特に水の味や新鮮さ、流れているかどうかは重要な基準であり、見た目が透明かどうかだけでは判別されていない。その一方で、洗濯や水浴び用には、水質よりも十分な水量を確保することが求められる。人びとは用途に合わせて、利用可能な水源を多様な選択肢の中から選び取っている。
同じ水源であっても、天候や季節によって水の状態が変化していることを敏感に察知し、利用を変化させていた。例えば、雨が降ると手掘り井戸に汚れが流入するため、一度全ての水をくみ出し、掃除した後に新しい水が湧くのを待ってから利用したり、乾季から雨季への変わり目の雨はほこりなどの汚れを含み、病気になりやすいため利用しないようにしたりするなど、知識や経験を基に用途に適した水源を選択していた。
(手掘り井戸を掃除する女性たち=2019年10月24日)
水源を選択する際には、水くみのしやすさや所要時間も考慮される。水くみは主に女性や女児が担っており、彼女たちはバケツを頭に乗せて絶妙なバランスを保ちながら家と水源を何度も往復し、生活に必要な分の水を運んでいる。10㌔以上の重さの水を何度も運ぶことは、楽な仕事ではない。筆者も実際に水を運んでみたが、揺れで水を何度もこぼしてしまうだけでなく、頭や首をひどく痛める羽目になった。
そうしたことも考慮して、人びとはできるだけ家の近くにある水源を積極的に利用したいと考えている。他方、手押しポンプは近くにあっても長時間待たなければならないため、忙しい時には避けたいとも考えている。
村の人びとは自らの生活や健康を意識しながら、用途に適した水源を選択しているだけでなく、水をくむための労働や時間などを考慮し、水源を使い分けていると言える。
次回は引き続き、農村の生活の中で水を具体的にどのように利用しているのか紹介していく。
近藤 加奈子(こんどう・かなこ)京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻
高橋 基樹(たかはし・もとき)京都大学教授、神戸大学名誉教授。京都大学アフリカ地域研究資料センター長。元国際開発学会会長。専門はアフリカ経済開発研究
連載「アフリカにおける農の現在(いま)」では、アフリカの農業と食の現状を、京都大学の高橋基樹教授が若い研究者とともに報告します。
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