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「ゲノム編集」ってなに?  技術への理解深める必要  前田佳栄 日本総合研究所創発戦略センターコンサルタント

2021.09.13

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 ゲノム編集の登場により、作物の品種改良が進化しつつある。ゲノム編集は、狙った遺伝子をピンポイントで改変する技術であり、これまで何十年もかかっていた品種改良の期間を飛躍的に短縮することができる。(写真はイメージ)

 人口増加や気候変動による食料供給の課題解決にも貢献すると期待されている。

 国内では、ゲノム編集により、血圧上昇抑制効果をもつ機能性成分であるGABA(ガンマアミノ酪酸)を果実に高蓄積するトマトなどが開発されており、ヘルスケアの観点でも注目されている。

 しかし、技術の社会実装に向けて大きな課題となっているのが、食品としての安全性や環境への影響などのリスクに対する合意形成である。日本では、厚生労働省、環境省、農林水産省などが制度や規制を設けており、厳しい審査が課されているものの、ゲノム編集により生み出される作物を不安視する声は絶えない。

 不安の背景にあるものの一つが、他の生物が持つ遺伝子を挿入した「遺伝子組み換え」作物に対するイメージである。国内では、本来持たない遺伝子を組み込むことによるリスクへの懸念から、遺伝子組み換え作物を回避する傾向が続いている。

 ただ、中には、ゲノム編集と遺伝子組み換えを混同している人もいると聞く。よくある間違いとして、「ゲノム編集=遺伝子組み換え」と思っている例がある。「ゲノム」「遺伝子」と似たような言葉が並ぶので、「技術の違いはよく分からないけれど、何となく不安」と感じている人は少なくないだろう。

 実際には、両者には大きな違いがある。専門的な知識を正しく伝えることで、不安の解消につなげることができる。詳細な定義は農水省厚労省のホームページなどで公開されているので、関心のある方はご覧いただきたい。

 科学の最前線にある技術は複雑で、その全体を理解するには多くの前提知識が必要となる。せっかくの有用な技術が、必要な人に届かなくなるようなことがあってはならない。技術の円滑な社会実装に向けて、一般の人にも理解できるような情報提供が必要だ。そのためには、学校教育を通じて、若い世代から技術への理解を深めていくことなども有効である。

 ここ数年の新型コロナウイルスへの対応を通じて、科学的なエビデンスに基づく判断や合意形成の重要性が再認識されている。最先端の品種改良技術の実装に関しても、これまでの先入観ではなく、科学的なエビデンスを基にした適切な判断と丁寧な合意形成が欠かせない。

(KyodoWeekly・政経週報 2021年8月30日号掲載)

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