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「自伐型林業」に出会う  アスリートの人生設計  田中夏子 長野県高齢者生協理事

2021.07.12

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「自伐型林業」に出会う  アスリートの人生設計  田中夏子 長野県高齢者生協理事の写真

 信州の中山間地で、田畑あわせて1反歩(約1000平方㍍)強という、極小サイズの農に取り組んでいる。(写真上はイメージ、自伐型林業は伐採に適した樹木を見極める作業から始まる)

 山林だった地域を1980年代に別荘開発しその後放棄されて再び山林化した場所なので、土地は痩せている。まずは土づくりからということで、堆肥用の落ち葉や腐葉土を集める目的で、林にもよく入る。

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(鶏糞、糠、ワラの加え、山林から集めてきた落ち葉を使った堆肥づくりの途中)


 3月半ば、林の中で間伐作業をしていると若い方が2人、声をかけてくださった。わが家に隣接する山林を所有することになったとのこと。

 その山林は、これまではあまり手入れされておらず、所々に小さな崩落もあって岩も不安定...。私のような素人の目から見ても管理するのが難しそうな山林だ。そんな山林になぜ着目したのか不思議に思って、購入の動機をお尋ねした。すると、「自伐型林業の練習場として」との答えだった。

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(「自伐林業の練習場」となる山林)


 戦後植林した木々は現在、伐期を迎えているとされる。通常は、森林組合などに委託して皆伐するが、「自伐型林業」は、小規模、択伐型の、環境に配慮した施業方法で、防災面でも高く評価される。その自伐型林業に挑戦するという。名刺を見ると、「一般社団法人 ディバースライン」とある。いらしたのは、同団体の代表理事の天野紗智さんとそのお仲間だ。

 天野さんによれば、「持続可能性を十分に発揮する森林づくり」を通じて、気候危機や中山間地域の仕事起こしに取り組むとのこと。それにとどまらず、次のような思いもある。

 天野さんは「私たちの団体は、冬季スポーツのアスリートたちで構成されていますが、一部のトップアスリートを除いてほとんどのアスリートは不安定な雇用状況に置かれているのです」と指摘する。

 その上で「アスリートとして一線で活躍できるのは一時期なので、その後のキャリア形成も私たちにとって大きな課題です。そこで、スポーツを楽しむ場としてお世話になっている山や自然環境に、何かお返ししながら、キャリアや自己実現にもつなげたいと考えてたどりついたのが自伐型林業です。私たち自身が自伐をすることももちろんですが、自伐の取り組みを広げるための講座運営も事業にする予定です」と語った。

 お話を聞いて、またその後、メールでもいろいろと教えていただき、森林荒廃、気候危機、中山間地が抱える困難といった大きな課題と、自らのアスリートとして人生設計とを重ね合わせながらの挑戦が、こうした、目の前の小さな現場から着実に始まっていることに、なんだかとても心躍る思いが湧いた。

(Kyodo Weekly・政経週報 2021年6月28日号掲載)

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