幕末の長崎を再現したい 飛躍する人材の目的地に 陣内純英 西海みずき信用組合理事長
2021.07.12
長崎県は若者の人口流出(とくに高校卒業時と大学卒業時)に悩んでおり、県内就職率の向上が大きな課題だ。筆者が思うに、県内就職率が低いのは長崎県内の企業のことを学生が知らないことが一因だろう。
特に佐世保市は、県下第2の大都市でありながら、有名企業は少ない。市内の学生さんに尋ねても、「ジャパネット以外思い浮かばない」との答えが返ってくる。そもそも企業を知らなければ、就職しようとは思わない。
そこで、おととし、学生、生徒さんはもちろん、両親らにも地元の企業のことを知ってもらおうと、若手経営者とともにイベントを行った。市内のアーケード街に30社ほどの企業がブースを設け、ボランティアの学生さんにも手伝ってもらって市民にアピールした。
ソフトウエア企業によるプログラミング体験、鋼管メーカーによる鉄に関するクイズ、波佐見焼の窯元による絵付け体験など各社趣向を凝らし、楽しいイベントとなった。
昨年は、企業と学生が一緒になって「持続可能な開発目標(SDGs)」に取り組むプランのコンテストを開催。今年、長崎県立大では県内企業が作成した動画を教材に「地域企業研究」という授業が行われた。
以上は、地元の企業を知ってもらうことで、学生らの選択肢を広げる取り組みだが、一方で「地方の学生・生徒は、都会と比べて情報劣位にあるため、選択肢が狭まっているのではないか?」と心配する声がある。
都会であれば、例えば、IT技術者、グローバル企業の社員、高級官僚、芸能界関係者らいろんな人が身近にいる可能性が高いが、地方ではそうはいかない。
そこで、1人の若手ビジネスマンが、故郷の若者にさまざまな仕事の内容や楽しさを伝えたいと、佐世保市役所に企画を持ち込んだ。
それを基に、市役所の若手職員と当信組のクリエーターが協力してリモートで始めたのが、「させぼキャリアアカデミー」だ。佐世保出身で東京や世界で活躍する先輩が、故郷の大学生・高校生たちに今の仕事の内容やその仕事を選んだ理由などをざっくばらんに話す。
初回は、メガバンクの企画部門に勤務する発案者自身がゲストを務めた。2回目以降は、IT企業の営業マン・大手自動車メーカーのエンジニア、落語家(写真:佐世保キャリアアカデミーのサイトより)が登場。所定時間でいったん閉めた後も、熱心な学生が残り、ゲストとのやり取りが夜遅くまで続いた。
長崎県の若者も、視野を広げ、どんどん都会や世界に出て活躍してほしい。しかし、それでは若者の流出が続くので、一方で、長崎(佐世保)に流入する若者を増やす必要がある。
そのためには長崎(佐世保)が、特定の若者にとって、自らの飛躍のためにやってくる目的地にならねばならない。彼らが集まり始めるきっかけを作り、いずれは幕末の長崎を再現したいものだ。
(Kyodo Weekly・政経週報 2021年6月28日号掲載)
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