どうする担い手不足 迫られる農政転換 小視曽四郎 農政ジャーナリスト
2021.06.28
5年に一度の農林業センサスで農業就業者数の減少が深刻だ。新規就農者数(2019年)も全体では横ばいだが、うち49歳以下は2年続けて2万人を割り、農業の担い手不足に不安が高まっている。(写真はイメージ)
農業白書はコロナ禍を受け「食料自給率向上や食料安保への期待が高まっている」としたが、農業現場の実態は逆行している。今回の結果を見る限り、農政の1日も早い転換が迫られている。
4月末に公表した20年農林業センサスによると、個人経営体の基幹的農業従事者数は136万3000人で15年比39万4000人減り、平均年齢は67.8歳(前回は67.0歳)だった。うち65歳以上は94万9000人と約7割を占めた。これは05年の57.4%、10年の61.1%、15年の64.9%に比べ一層の高齢化を示している。
一方、農業法人などの雇用者(常雇い)も、15年と比べ6万3000人減の15万7000人、役員・構成員も2万3000人減の8万1000人。雇用側も高齢化し、経営縮小や廃業が影響している。
農林水産省は昨年決めた「食料・農業・農村基本計画」で30年に同就業者数を140万人確保する展望を示したが、実現の可能性に黄信号がともる。
また、今回のセンサスとは別に公表した、19年新規就農者数は前年比0.1%増の5万5870人。しかし49歳以下の若手就農者は約1万8500人と13年以来の低水準を記録した。
農業就業者数の急減の理由を政府は明言しないものの、当然ながら安倍晋三政権以降の環太平洋連携協定(TPP)や日豪、日欧州連合(EU)経済連携協定(EPA)、日米交渉など相次ぐ市場開放と経営の不安定化、規制改革によるコメの生産調整の廃止、企業の農地取得など一連の「官邸農政」の影響は明らかだ。
18年暮れの国連総会で採択された、家族経営など小規模農業の価値と権利を明記した「小農宣言」に日本政府は棄権。安倍政権が家族農業を冷たく軽視する「本音」を農家にさらした。
規制改革推進会議の農林水産ワーキンググループ座長の佐久間総一郎・日本製鉄顧問でさえ、若者の農業参入や定着の難しさを聞き「国家的危機の意識で若者を呼び込むべきだ」と危機感を口にしたという。全国の経営耕地面積も減少傾向が続き、このままでは持続可能な農業どころか食料危機の恐れさえ、佐久間氏は予感したのではないか。
農水省も深刻な結果に急きょ、アグリベンチャー企業などからの意見聴取を始めた。この際、秋までに実施される総選挙で、食料自給率向上への農政の在り方を一大争点にして国民論議を巻き起こし、真に国民が求める農政とは何かを問うべきだ。
(KyodoWeekly・政経週報 2021年6月14日号掲載)
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