有機農産物、フードロス対応の需要も取り込み 拡大する産直市場 田中宏和 矢野経済研究所フードサイエンスユニット上級研究員
2021.06.16
(写真はイメージ)
「産直」とは従来の卸売市場を経由せず、産地と消費者、小売事業者、食品メーカーなどが直接、取引する流通形態を指し、産直農産品とはそこで流通する国産青果物のことをいう。
かつて農産品流通は、卸売市場を経由するのが一般的であった。商店街には八百屋が多数あり、その多くは卸売市場の主要な顧客であった。しかし消費のワンストップ化が進み、スーパーが生鮮野菜の主要な購入先となったことで、八百屋のような一般小売店は減少している。
生鮮野菜の主要な販売チャネルとなったスーパーでは、店舗の大規模化とともに、仕入れ原価を安定化させるための一括仕入れや、プライベートブランドの調達などを目的とした産地との直接取引が拡大している。
2009年に実施された農地法改正では、新規参入の規制が大幅に緩和され、農業生産法人や一般法人による農業参入は相次いだ。こうした参入企業が直売事業などの契約取引に注力し、前述したスーパーなどの業務用需要を取り込みつつあることが、産直市場を拡大させる要因と考える。
産直市場が拡大を続けるもう一つの理由には、農家収入の安定化が挙げられる。卸売市場の場合、相場による収入の増減が大きいほか、規格外の野菜は売り物にならない。一方、産直市場向けには、生産した野菜を無駄なく出荷できる上、農家が自分で値付けできることも多く、手取りが増えるメリットもある。
新型コロナウイルス感染症の拡大を経て、家庭では調理機会が増えるなど食の在り方が大きく変化する中、こうした巣ごもり需要を取り込み、オイシックス・ラ・大地、ポケットマルシェ、ビビッドガーデン(食べチョク)といった電子商取引(EC)が拡大している。
参入各社は「健康・免疫意識の高まり」、「家庭での食事頻度の増加」などの新たなニーズに対応するため、オーガニック野菜のほか、フードロス削減の観点にも基づいて規格外や産地で供給過多となった野菜の商品化も図り、新たな需要を開拓している。
国内人口の減少や食の外部化(外食や中食の利用等)が進む中で、生鮮野菜の消費は減少傾向にある。今後は限られた需要に対し、誰がどのように流通させるかという局面を迎えつつある。
産直農産品は、生産者と、流通事業者(商社等)や実需者(小売や外食チェーン、加工食品メーカー等)が決めた価格となるため、相場の影響を受けず仕入れ価格を安定させるメリットがある。また鮮度の高さや、市場に流通しない珍しい食材の提供、さらに販売事業者による食材の特色を生かした食べ方の提案といった普及活動がみられる。
産直農産品が存在感を高める中、2020年6月の改正卸売市場法施行により、卸売市場での取引や民間企業による参入規制が緩和された。卸売市場法とは卸売市場での取引を適正なものにし、生産や流通がスムーズに行われるための法律である。過去に3回の改正が行われ、食材流通の環境に合わせて規制が緩和されてきた。
20年6月の4回目の改正では、「直荷引き禁止」、「商物一致の原則」、「第三者販売の禁止」などが見直され、例えば、卸売業者を経由せず、直接、仲卸業者は産地から仕入れられるようになった。
また卸売市場への集荷をなくし、産地から実需者への直送が可能になるなど、産直市場との垣根を低くした。加えて、卸売業者は同市場内の仲卸業者や売買参加者(小売・量販店等)以外にも販売が可能となるなど、卸売市場が活性化と物流の効率化を図る方向性がより明確になっている。
矢野経済研究所の調べでは、卸売市場を含む農産品全体の市場規模は横ばいで推移しており、19年は事業者による流通総額ベースで前年比0.6%増の9兆2250億円だった。このうち産直市場は前年比4.2%増の2兆9424億円と、農産品市場全体の31.9%を占めた。
前述した通り、仕入れ原価を安定化させたい実需者や食材にこだわる消費者、収入増に取り組む農家のニーズを捉えて産直市場は拡大しており、24年には農産品市場全体の37.5%までシェアを高める見通しとなっている。
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