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いのちを食べている実感   高校生がシカ肉調理実習  畑中三応子 食文化研究家

2021.06.07

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いのちを食べている実感   高校生がシカ肉調理実習  畑中三応子 食文化研究家の写真

 国産ジビエ(野生鳥獣の肉)の活用推進と普及につとめている日本ジビエ振興協会代表理事、フランス料理シェフの藤木徳彦さんがさる4月30日、東京・世田谷区の駒場学園高校食物調理科3年生に、ジビエの1日授業を行った。

 授業は野生鳥獣による農作物被害の説明で始まった。被害の6~8割をシカとイノシシが占め、47都道府県すべての農家が困っている。被害額は2010年度の239億円をピークに、自治体による捕獲強化が進み、19年度は158億円まで減少した。だが、いくら捕獲数が増えても動物の生息数自体は減らず、逆に猟師は高齢化のためどんどん減っている。

 捕獲したシカとイノシシのうち、食肉利用されるのはたったの9%。残り91%は捨てられている。「殺すのはかわいそうと思うかもしれないが、駆除しないと農業は持続できない。奪ったいのちを無駄にせず、おいしく食べることで健全な循環ができ、資源として活用すれば地域は潤って農業の持続性にもつながる」。藤木さんが語る実情を、みな真剣に聞き入っていた。

 続いて、シカを解体して各部位に分け、ソテーして部位ごとの味と食感の違いを確かめるなど、調理実習と試食を行った。(写真:シカの解体を生徒に指導する藤木さん=右から2番目、筆者撮影)

 みな初体験のジビエだったが、「鉄分の多い血の味がして、少し癖があるがおいしい」「スーパーの肉とは違って、いのちを食べている実感がある」など、感想がたくさん聞かれた。フランス料理では、骨、すじも余すことなくスープ作りに利用するので、食品ロスが少ない。生徒たちはすでにSDGs(持続可能な開発目標)を学んでいたが、体感できることの多い授業だったようだ。

 シカ肉の味は年齢、雌雄によっても違うが、季節による違いも大きい。餌が少ない冬は痩せこけ、春から山菜をたっぷり食べて脂がのってきて、初夏がいちばん太る。盛夏は暑すぎて山から降りてこなくなり、秋は繁殖期なのでオスの肉は臭くなってしまう。

 江戸時代初期の1643(寛永20)年に刊行された日本で最初の一般向け実用料理書、「料理物語」にも掲載されているほどで、シカ肉のうまさは昔から知られていた。「紅葉と鹿」の取り合わせのように、晩秋から冬が旬だと思われているが、実は4月から6月いっぱいがベストシーズンなのである。

 「家畜の肉は1年中味が同じだが、ジビエは四季で変わる。そこがジビエのおもしろさ」と藤木さん。以前は11月から2月(北海道は10月から1月)しか捕獲できなかったが、有害鳥獣の駆除目的に、それ以外の期間も狩猟が可能になり、旬のシカ肉が食べられるようになった。

 近年、各地でジビエ専用の処理加工施設の整備が進み、食肉としての供給量が順調に伸びていたが、昨年の緊急事態宣言以降、レストランやホテルでの需要が激減している。

 一方で、ジビエのインターネット通販が増え、家でも衛生的に処理された安全なジビエ肉を楽しめるようになっている。取り寄せて、農作物被害縮小を応援してみてはどうだろうか。ジビエには家畜のような環境負荷もない。藤木さんおすすめの家庭向きシカ肉料理は、から揚げ。味つけする前にヨーグルトに1時間漬け込むと、やわらかくなってよりおいしい。

(KyodoWeekly・政経週報 2021年5月24日号掲載)

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