今こそ地方に優良な雇用を 東京圏の就業機会減少 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員
2021.05.10
新型コロナウイルス感染症の拡大(コロナ禍)をきっかけに、東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)の転入超過数(外国人も含む総数)が大きく減っています。2019年には、約15万人近くまで膨らんでいたものが、2020年には一気に10万人を割り込む水準となりました。(写真はイメージ)
東京圏の人の出入りを月単位でみると、2020年7月以降、転出超過となる月もあり、コロナ禍をきっかけに地方への移住熱の高まりを示すものとの見方もあります。しかし、実態は必ずしもそうではありません。
東京圏の転入超過数が減少したのは、転入者数の減少によるものです。2019年に54万人であった東京圏の転入者数が、2020年には49万人と5万人減少しています。その間、東京圏からの転出者数は、39万人と横ばいで推移しました。
東京圏の転入者数が減っている最大の理由は、コロナ禍によって就業機会が減ったことです。東京都の有効求人倍率(就業地別)は、コロナ禍以前には全国平均とほぼ同水準にありましたが、感染拡大とともに急落し、足元では全国平均を下回っています。それにより、仕事を求めて東京圏に流入する人が減り、転入者数が大きく減少したものと考えられます。
1歳区切りのデータを用い、2019年と2020年の東京圏の転入超過数を比較すると、さらに興味深いことがわかります。
例年、東京圏の転入超過は、18歳から35歳ころまでに集中し、全転入超過数の大半を占めます。ピークとなる22歳は新卒採用のタイミングであり、この年齢の東京圏の転入超過数は、両年とも3万2000人で変化はみられませんでした。しかし、2020年の26~35歳の転入超過数は、前年に比べて半減しています。
こうした状況から、いくつか仮説が考えられます。まず、コロナ禍以前に採用が決まっていた新卒者は、例年通り3月に東京圏に移動したものの、就職活動がコロナ禍と重なった地方在住の転職希望者などは、東京圏で思うように仕事を得ることができなかった可能性があるということです。加えて、地方の企業が東京への社員の駐在を抑えた可能性もあります。
問題は、これからデータが公表される2021年3月の人口移動です。東京都の有効求人倍率は下げ止まりの状況にありますが、依然として全国平均よりも低く、回復にはもう少し時間がかかりそうです。そのため、新卒採用者が全国から東京に集まるこの時期の東京圏への人口流入は、低水準にとどまる可能性があります。
地方に多くの若者がとどまる状況は、人口流出が悩みの種であった地域にとっては好ましい状況と考えがちです。
しかし、それによって若い世代が希望する企業、職種に就くことができず、賃金も低い水準にとどまるようであれば、わが国全体でみれば好ましいことではありません。
コロナ禍で厳しい状況にある企業が多いとは思いますが、地方にあっても、若い世代が希望の仕事に就き、その働きに見合って高い所得を得ることができるような強い雇用の創出が必要であることに変わりはありません。
(Kyodo Weekly・政経週報 2021年4月26日号掲載)
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