できるか農政大転換 「みどりの食料システム戦略」を考える 小視曽四郎 農政ジャーナリスト
2021.05.10
農林水産省が3月末に中間まとめをした「みどりの食料システム戦略」が大きな話題だ。2050年を目標に化学農薬使用は半減、化学肥料は3割減、有機農業は全耕地の25%(100万㌶)には、従来からすれば想像外の農政大転換だ。技術開発の工程表を示すも農業現場の唐突感、違和感は大きい。(図:同省作成の中間まとめ資料から)
この戦略の土台が国連の提唱するSDGs(持続可能な開発目標)や環境負荷軽減などとなれば誰しも反対論は言えない。
ただ、動機のきっかけを農水省周辺で取材すると、欧州連合(EU)や米国などの温暖化対策の進行など諸外国の動きがある。特にEUがコロナ禍を受けて昨年5月にまとめた「Farm to Fork(農場から食卓まで)」戦略で2030年までに殺虫剤使用50%削減、化学肥料も少なくとも20%削減、畜産と水耕栽培の抗菌剤50%削減、農地の25%を有機農地に、などを打ち出しているからだ。
米国も農業での温室効果ガス実質ゼロを宣言したバイデン政権以前から脱炭素戦略を進めている。菅義偉首相が昨年10月の臨時国会での所信表明演説で2050年の温室効果ガス排出実質ゼロを打ち出したこともタイミングが合う。
今年9月には国連が食料システムサミットを開催。各国の取り組みを披露し、あるいは方向性を提唱することになるため「このままでは日本は完全に欧米に乗り遅れてしまうと危惧」(全国紙記者)したようだ。
農薬の使用半減は業界の大規模な縮減となり、安易に農薬を減らせば、欧米とは違う高温多湿の気象条件の下、病害が多発し収量の減退、農業経営の悪化を招きかねない。有機農業は現在(2018年)の有機JAS認証ベースで1万1000㌶、未認証を含めてもわずか2万3700㌶しかなく、普及はしにくいとみられてきた。
今回の数値目標は「業界との意見交換の中で決めた」(農水省)というが、どう見てもEUの方針に引きずられた印象だ。
農水省は「目標はあくまで30年後。100を超す技術開発、技術革新(イノベーション)で着実に進めたい」(大臣官房)と強気だ。
ただ不思議なのは、昨年3月に閣議決定した5年ごとの食料・農業・農村基本計画で最大の眼目とすべき食料自給率引き上げとの関連性や、輸入食料の増加に伴う環境負荷対応などにほとんど触れていないこと。これまでの農政との整合性はどうするのか。5月の正式決定後の来年度予算対応などで菅政権の本気度が試される。
(Kyodo Weekly・政経週報 2021年4月26日号掲載)
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