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連携強める日豪の農業ビジネス  豪政府、州関係者座談会(上)  NNAオーストラリア

2021.05.12

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連携強める日豪の農業ビジネス  豪政府、州関係者座談会(上)  NNAオーストラリアの写真

 昨年のオージービーフの最大の輸出先が日本となった一方で、日本産のイチゴが初めてオーストラリアに輸出されるなど、農産物貿易を巡る日豪のつながりがより強固になってきた。日本のビジネスにとって、オーストラリアの農業や市場の魅力とは何か、そしてその先にあるアジア市場をどう見るか。東京に駐日事務所を置く各州の政府代表や大使館関係者らに聴いた。


─各州の概要やアピールポイントを教えてください

【安達健・クイーンズランド州政府駐日代表】まずクイーンズランド(QLD)州は農業の州、という位置付けだと思っています。中でも牛肉は州の農業輸出の約8割を占め、日本でも昔から親しまれています。一方で野菜や養殖水産物の生産や加工食品の製造も盛んです。QLD州はウエスタンオーストラリア(WA)州に次ぐ広さで、その8割は農地、亜熱帯から熱帯にかけての土地では、さまざまな種類の野菜や果物が生産されています。

 日本の品種をオーストラリアで栽培し日本市場で販売する場合、オーストラリアに既存の品目があれば話は簡単です。しかし特徴的なのはそうではない時に、QLD州では日本のニーズに合った物を州の補助金を受けながら現地と協力して開発するプログラムがあります。計画の初期段階から州政府も関わり、現地のスペシャリストも協力し一体となって取り組む制度は成果が出ていますね。

 【ピーター・ナイト・ニューサウスウェールズ州コミッショナー】ニューサウスウェールズ(NSW)州は最も歴史があり、人口は800万人を数えます。州の総生産(GDP)は約6000億豪㌦(1豪㌦=約84円)と全国の3分の1を占めるマーケットとして最大の州で、これまで成長を続けてきました。昨年は新型コロナで28年ぶりに後退しましたが、現在は回復を見せています。

 州政府は農業に対するイノベーションプログラムを導入し、回復には農業も大きな役割を占めました。26年に開業予定の西シドニー空港の関連プロジェクトには、農業特区も組み込まれ新たなゲートウエーになると期待しています。

 またNSW州では、日立製作所と豪食肉家畜生産者事業団(MLA)がドローンを利用するアグリテックの実験を行っています。このようなプログラムは州全域で案件があります。

【アダム・カニーン・ビクトリア州政府駐日代表】ビクトリア(VIC)州は、日本の本州と同じくらいの広さなのですが、オーストラリアの国土の3%に過ぎません。しかしGDPや人口は全国の4分の1に達します。州都メルボルンの成長は国内随一で、30年にはオーストラリア最大の都市になるという予想もあります。

 VIC州の農業生産高は年間160億豪㌦で、全国の25%の生産を行っています。酪農は国内有数です。最近日本で目立っているのは生食用ブドウですね。日本向けの1万1000㌧以上の輸出のうち、そのほとんどはVIC州産です。

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(イチゴを栽培する巨大グラスハウス、VIC州=NNA)

 また皆さんよくご存知のカゴメ、伊藤園、ヤクルトなどがVIC州に進出しています。カゴメはオーストラリア最大級の野菜生産者で、年間約20万㌧のトマトを生産し、伊藤園も緑茶を国内外に出荷しています。

 VIC州はアグリテックにも強く、食品加工の研究開発の約40%は同州で行われています。20年度の州予算では6500万豪㌦が農業向けで、その内1500万豪㌦は農家が革新的なアグリテックにアクセスできるようにするために使われます。

【鈴木舞子・サウスオーストラリア州商務官】サウスオーストラリア(SA)州は皆さんご存知の通り、ワインの生産がオーストラリアで最も盛んな州です。国内のブドウ農園の半分弱がSA州にあり、700カ所以上のワイナリー、3400社ものブドウ栽培団体が存在します。州都アデレードは食文化の中心地として注目を集め、テイスティング・オーストラリアといった食のイベントも開催されます。また、ミナミマグロの産地としても有名で、さらにカンガルー島ではカノーラ(写真上=NNA)の生産、輸出を通じて日本と強いつながりがあります。

【遠山桃子・ウエスタンオーストラリア州ビジネスデベロプメントマネジャー】オーストラリアの西側約3分の1を占め、日本の7倍の面積を誇るWA州は、人口は266万人で昨年は1.5%増加しました。WA州の経済は輸出が中心で、州総生産は前年度比で1.4%増加し、全国の約16%を占めます。

 農産物などの輸出高は75億豪㌦です。対日貿易に関しては、204億豪㌦で、WA州全体の9.3%に相当する規模があります。日本は中国に続いて2番目の貿易相手国として、非常に長く良きトレードパートナーとしての関係が構築されています。中でも穀物輸出は日本が最大の輸出先で、小麦は3億豪㌦、大麦は2億豪㌦の輸出規模があります。

 国土の西側をすべてカバーする州なので、幅広い気候や異なる土地の特性を生かした産物を生産することが可能です。最大の穀物産地でありますが、最近はロックロブスターなどにも力を入れています。生態学的に持続可能で高品質な生産を行っているほか、厳格なバイオセキュリティー措置が取られており、害虫発生がないといった食の安全性が高いことが証明されています。

【篠田香・オーストラリア大使館商務部主席商務官】大使館商務部からは、日本向けの輸出品目が多く関わりが深いタスマニア(TAS)州について説明します。TAS州は南極とオーストラリア本土の間の島で、世界でも稀な雨水が飲める場所といわれています。

 食品農業関係の輸出も多く、果実や野菜、肉、シーフード、ワイン、ウイスキーやスピリッツなどが有名で、州の名前のタスマニアが世界中に知られるブランドとなっています。特徴としては遺伝子組み換えのリスクがないことや、農薬の使用も最小限に抑え、自然に近い状態で安全な食材を生産することが知られています。

 天然アワビに関しては、世界で産出されるアワビの25%以上を担う屈指の産地であり、高い抗菌作用で知られる蜂蜜「レザーウッドハニー」も日本や各国に販売しています。

 TAS州は駐日事務所がありませんが、北部特別地域(準州、NT)と同様に、日本企業からのビジネスに関する相談や商材の引き合いは大使館商務部で承っています。

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─日豪貿易振興における州政府の役割や活動内容は

【VIC州アダム】政策は連邦政府が決定しますが、オペレーションは州政府が実行します。私たちは早い話、仲人さんなのですね。日本の投資家にオーストラリアの機会を紹介するだけでなく、VIC州と事業をやりたくても研究パートナーが探せないなら、大学や研究所の紹介やパートナーシップを仲介します。

 VIC州の「インベストVIC(VIC州政府投資誘致局)」が、補助金なども含めて各種のサポートも行っており、投資の初期の段階からいろいろとご相談に乗らせていただきます。

 またリロケーション(転居)に関して、子どもの教育や事務所を探すサービスなども提供します。できるだけスムーズに投資をオーストラリアに投入し、さらにVIC州から他の国に輸出ができるようにすることを頑張ってやっています。

【QLD州安達】「仲人」も待っているばかりではダメで、たまにはビラ配りも必要だという勢いでやっています。ただ、オーストラリア側から投資を誘致してもらいたいという話も来ますので、そういった場合はピンポイントで日本の会社にコンタクトします。日本の企業側も具体的な案件があった方が考えやすいですよね。

 それと先ほどアダムが言ったように、補助金は州ごとにいろいろありますね。QLD州の場合は、地方に進出する企業はより補助金が厚いとか、アグリテックはハブ(中核地)があり、家賃をサポートするので拠点を作ってからネットワークを広げようなど、お客様と一緒に話し合いながら展開していく、という流れですね。

【NSW州ピーター】またNSW州政府は各省庁との打ち合わせにも協力できますね。さまざまな規制に関する協議も行いますし、オーストレード(貿易促進庁)からのサポートを引き出すこともできます。他の州政府も同じ関心があることも多いので、協力して一緒に日本政府と打ち合わせすることもありますね。

【VIC州アダム】日本企業はデューデリジェンス(資産査定)を重視していると思いますが、そのためのいろいろな情報提供をさせていただきます。

─自然災害や対中問題のリスクについてはどうでしょうか

【QLD州安達】やはり現在の一番のリスクはボーダー(国境)が閉鎖され、サプライチェーンに大きなインパクトがあったことですね。フレート(貨物運輸)のコストが上がって最終的に産品の値段が上がったという例が多いと思います。これには各州が協力して電子商取引(Eコマース)やサプライチェーンのデジタル化を進め、物流が止まらないようにしています。これにはうちの州政府も予算を出していますね。

 また農業ですから当然気候リスクがあります。QLD州は野菜でも穀物でも、干ばつリスクは避けられないと考えて、それに強い品種を改良開発することに、州の農水省は予算を充てています。

【SA州鈴木】SA州はコロナと対中国問題で、ワイン産業に打撃を受けました。州政府の対策としては輸出業者や生産者に向けて市場多様化の促進を訴求、教育をしています。

 今まで進出が難しいとされたマーケットでも、機会を創出できるようなイベントを増やしています。従来のように実際にショーケースすることが難しくなったので、州政府としてはウェブマーケティングに注目し、業界に代わってプロモーションしているというところですね。

【NSW州ピーター】その通りですね。最近のオーストラリアと中国との緊張関係は、貿易面で一つの市場に集中しすぎる危険性をはっきり示しています。そして、日本などほかの国との取引に分散するように州政府も協力しています。

【SA州鈴木】はい、SA州ではもともとロブスターの中国への輸出が100%止まったことが始まりでした。

 当時、代わりに日本へ輸出ができないかと話もあったのですが、結局日本もインバウンドの旅行者に、そういった高級食材の消費を頼っていた部分があるので、難しかったです。最終的に輸出業者からも値段がそこまで叩かれるのなら豪中関係が回復するのを待つという声が出ましたね。

 根本的な部分として一つの市場に頼り切ってしまうと有事の際に産業全体がかなり落ち込む、という経験を踏まえ、この期間に準備を整え、ほかの市場も見ていこうと州政府全体で推し進めています。

【WA州遠山】WA州は干ばつ、水害、山火事などの自然災害の影響をほとんど受けることがないのですが、一番の懸念は新型コロナによる輸送面の影響です。19年9月に就航したばかりの成田-パース間の直行便が現在休航中です。WA州から輸出される2万㌧の生鮮品のうち、58%が中国以外のアジアへ空輸されていました。よって船便を活用できる最新技術開発と導入が課題です。船便輸送の技術面の強化を目指しているところですね。(座談会(下)に続く)

〈発言者=登場順〉
・クイーンズランド州政府駐日代表 安達健
・ニューサウスウェールズ州コミッショナー ピーター・ナイト
・ビクトリア州政府駐日代表 アダム・カニーン
・サウスオーストラリア州商務官 鈴木舞子
・ウエスタンオーストラリア州ビジネスデベロプメントマネジャー 遠山桃子
・オーストラリア大使館商務部主席商務官 篠田香
・聞き手 Wealth編集長 湖城修一

(オセアニア農業専門誌ウェルス(Wealth) 4月30日号掲載)

【ウェルス(Wealth)】 NNAオーストラリアが発行する週刊のオセアニア農業専門誌です。

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