オンラインならではの楽しさを ポストコロナの観光農園 前田佳栄 日本総合研究所創発戦略センターコンサルタント
2021.04.26
新型コロナウイルスの流行が始まって1年以上が経過した。今回から数回にわたってポストコロナにおける農業の姿を考えていきたい。初回は観光農園だ。
新型コロナによる外出自粛に伴う観光客減少により、多くの観光農園が打撃を受けた。そうした中、新たなサービスとして、オンラインでの収穫体験を取り入れる農園が増えている。
参加者は、パソコンやスマートフォンなどの画面越しに、ガイド役の農業者から説明を受けながら、遠隔でどの果実を収穫するか自ら選ぶ。後日、収穫した農産物が自宅に届く仕組みだ。
(写真:スマートグラスを活用したオンライン収穫体験の実証の様子=美土里農園、栃木県茂木町)
参加者にとっては、現地に行かなくても、農産物の収穫を疑似体験できるのが魅力である。観光農園側としても、観光客が減少したことによる収入の低下を補うことができる。
ただ、現状のオンラインの体験は、実際に現地に行くのと比べて、劣る点があることも事実だ。農産物の品質に関しては、色・つや・香りなどは画面越しではなかなか伝えづらい。
また、その場で食べるときにはギリギリまで完熟させることができるが、宅配では輸送途中での実の崩れや腐敗を避けるために、完熟の一歩手前で収穫しなければならないといった制約がある場合がある。ここまでオンライン体験の弱点ばかり述べてきたが、「オンラインならでは」の楽しさを参加者に届けることもできるのではないか。
筆者は「AR」(拡張現実)の活用に注目している。実在する風景にバーチャルの視覚情報を重ねて表示することで、目の前にある世界を"仮想的に拡張する"というものだ。例えば、農園の案内の際、現在の姿に作物が育ってきた様子を、仮想的に重ねて表示することによって、栽培における農業者のこだわりや試行錯誤を説明しやすくなる。
収穫体験だけでなく、菜の花やひまわりなどの季節の花を売りにしている観光農園も多い。見頃が過ぎれば散ってしまう花も、ARを使えば、昔話の「花咲かじいさん」のようにきれいに咲かせることができる。
これらのアイデアは、いずれもリアルでは実現不可能であり、オンラインの良さを生かした付加価値戦略と言える。こうした工夫を通じて、農園のファンを増やすことができれば、自由に外出ができるようになったときに、今まで以上の集客が期待できるだろう。
(Kyodo Weekly・政経週報 2021年4月12日号掲載)
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