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安価なワインも良いグラスで  好きな食器を使う幸せ  石田敦子 エノテカバイヤー

2021.04.05

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安価なワインも良いグラスで  好きな食器を使う幸せ  石田敦子 エノテカバイヤーの写真

 私の母は料理が上手で、食器を選ぶことを大切にしている。本人は気づいていないかもしれないが、自由過ぎる父を支えてきた母は常に堅実だったが、食器を選ぶときだけ、確実に財布のひもが緩んでいた。母は作る料理をイメージして食器を丁寧に選び「かぼちゃの煮物の器」「ローストビーフのお皿」など、自然とそう名付けていた。

 わが家では夫婦でワインを飲むとき、複数のワイングラスを使う。ワインの種類が変われば違うグラスを使い、同じ1本のワインだとしても、違う形のグラスを試すからで、仕事の域というよりはもはや趣味だ。ヘビロテ(お気に入り)で使っているのは、「ザルト」「センサリー」「リーデル」「木村硝子」のグラスたちだ。(写真:筆者愛用のワイングラスの数々)

 一つ徹底していることは、値段が安いワインを飲むときでも必ず良いワイングラスを使うことだ。ちゅうちょする方はまだまだ多いかもしれないが、心からオススメしたい。

 ワインを楽しむ上で「味わい」は大切な要素。なんとなく、「味わう」=「舌が命」的な感じもするが、お料理もワインも私たちはいつも五感を使っている。目と鼻が担う役割も大きく、食器やグラスが、よりおいしく、より豊かに楽しむパートナーであることは間違いない。

 ワインのために作られているグラスは多くの種類があり、それぞれ、ワインが持つ甘み、酸味、渋みをどう舌の上で感じるか、口の中でのワインの流れ方、グラスを持った時の角度や重さまで考えられており、グラスメーカーたちのワイン生産者へのリスペクトが詰まっている。

 もちろん、家で飲むときに、「科学的に」頭を使って飲んだりはしない。一番大切なのは、フィーリングだ。私のお決まりの使い方は、ピノ・ノワール(ブルゴーニュに限らずすべて)やネッビオーロ(ピエモンテ)を飲むときは「ザルト」と「センサリー」の2脚で比較する。ボルドーは「リーデル」。シャンパーニュなら細身の「ザルト」だ。

 他にも、大切な「バカラ」のフルートグラスを千円代のカヴァやプロセッコなどを飲むときにも使い、家飲みのテンションを上げている。

 母が食器を大切にしてきたことは、そのままの形ではないが、ワイングラスを中心にわが家の食卓に定着している。

 長男(小6)は「今日はこれ?」と私たちのためにワイングラスを選んでみるようになり、長女(4歳)も堂々とグラスを持ち運びする。グラスを割らないためにできることは、酔ったらグラスを洗わないこと以外にあまりないが、大好きな食器やグラスを使う幸せが、子どもたちに少しずつ伝わってほしいと思う。


 石田さんらが出演したNHK番組「世界はほしいモノにあふれてる〜コスパ最高! 絶品ワインを探す旅〜」が書籍化されました。「世界はもっと!ほしいモノにあふれてる2〜バイヤーが教える極上の旅」(KADOKAWA、税別1550円)

(Kyodo Weekly・政経週報 2021年3月22日号掲載)

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