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日本9位、豪州31位の不思議  食料安保ランキング  アグリラボ所長コラム

2021.03.10

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 食料安全保障の水準で、食料自給率が低い日本は調査対象113カ国のうち9位、農業大国のオーストラリアは31位という少し意外なランキングがまとまった。

 英誌「エコノミスト」(The Economist)の調査部門であるエコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)は、各国の食料安全保障の水準を100点満点で評価、最新版(2020年)によると、日本は77.9点で、オーストリア(71.3点)や農産物輸出大国のブラジル(64.1点・50位)を引き離し、食料覇権を握る米国(77.5点・11位)をも上回った。

 「意外なランキング」の最大の要因は、食料安全保障に対する考え方の違いだ。「エコノミスト」は、1843年9月に産業資本家のオピニオン誌として創刊された。彼らは、安価な穀物の輸入を促進して労働者の賃金を引き下げるよう主張し、「穀物法」は46年に廃止、英国は保護貿易から自由貿易へ転換、資本主義が一気に展開していく。日本で「資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一が生まれたころのことだ。

 その後も同誌の論調は市場原理主義、レッセフェール(自由市場万能)が基本であり、食料確保の手段として国産か輸入かの区別を重視しない。EIUも、輸入関税が低いほど食料安全保障の水準が高いと評価する。日本は環太平洋連携協定(TPP)などで農産物関税を撤廃・削減したことが高得点につながっている。

 指標作成リーダーのプラティマ・シンEIU上級コンサルタントは、「輸入が増加して国内生産が損なわれるのは食料安全保障上マイナスではないか」という筆者の質問に対し「日本は食料の輸入依存度が高いが、国民は多様な食品を幅広く利用している」と応じた。

 日本では食料安全保障は「国内生産」「輸入」「備蓄」の「3点セット」が基本とされ、中でも国内生産が重視されてきた。自給率100%を目指すと公約する政党があるくらいだ。しかし、グローバル化の進展でフード・チェーンは複雑化し、国内増産や物流の確保だけでは食料安全保障を達成できなくなっている。

 特に欧州では気候変動への対応や、労働者の保護が不十分な農業生産や食品加工に対する批判が強まっている。食品が安全で栄養があるのか、環境規制や労働者の権利を守っているのかが、食料安全保障の重要な要素になっており、こうした規制を守らない食べ物はフード・チェーンから外されていく。

 EIUは食料安全保障の評価基準に新たに「天然資源・回復力」「食料の輸入依存度」「災害のリスク管理」「人口動態」「性差別」「所得再分配」を追加した。温暖化対策を組み入れるのが狙いだ。

 東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗前会長の発言が象徴するように、性差別の是正が遅れている日本では「性差別と食料安全保障に何の関係があるのか」という受け止めが多いかもしれないが、フード・チェーンの強弱は、食料の「量」だけでなく「質」が問われる時代を迎えたという認識が必要だ。

 EIUの指標は、自由貿易原理主義の偏向があるものの、彼らが何を主張しているのかを理解しておくことは重要だし、改良を重ねて影響力を強めていく姿勢には学ぶべきものがある。同じEIUが開発した性差別の水準を示す「ガラスの天井指標」や、各国通貨の購買力平価の目安である「ビッグマック指標」が幅広く利用されているように、徐々に認知度を高め、国際的な世論形成に影響力を強めていくだろう。(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)

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