ここまで来たか!! 地方商店街の衰退 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員
2021.02.15
昨秋、ある地方都市の商店街を歩いていたとき、驚いて、立ち止まってしまうような光景に出くわしました。
その街は、地方都市の中でも地場産業が活況を呈しており、人口が減少しているとはいえ、衰退の一途という印象ではなく、逆に地方活性化の成功事例の一つとされてきました。
その街の中心商店街から1本裏に入った狭い路地を歩いていたときのことです。商店の裏口に設けられた駐車スペースに、「とくし丸」という移動販売車が来ていたのです。
とくし丸は、10年ほど前に徳島県からスタートした移動販売サービスですが、すでに全都道府県を網羅するまでに急成長を果たしています。
従来の移動販売車とは異なり、地域のスーパーと提携し、個人事業主である販売員がスーパーから仕入れた商品を、一つ当たり10円上乗せして販売する、いわば移動スーパーです。販売員からすると、あくまでスーパーの商品を販売しているだけなので、売れ残りリスクを負うことなく多様な商品を取りそろえられるメリットがあります。
とくし丸は、当初より中心市街地から離れた山奥の地域のみならず、高齢化の進展や公共交通の衰退によって市街地においても近年課題となっている買い物難民に対応することも念頭に置いていました。
そのため、とくし丸の販売車を街中でみること自体にそれほど驚きはありません。しかし、今回私が驚いたのは、販売車を見かけたのがまさに商店街の中であり、買いに来ていた人たちもかつてはそこで商売を営んでいた人たちだったためです。(写真:商店街の裏路地で見かけたとくし丸=筆者撮影、画像の一部を加工しています)
その商店街は、歴史的には江戸時代にまでさかのぼることが可能で、立派なアーケードによって、たとえ雪が降っても買い物が楽しめるような一帯の中心的な商業拠点でした。
しかし、若い世代は郊外に住居を求めるようになったため、買い物客は減り、いまは地方都市でよく見かけるシャッター街の様相を呈し、アーケードも老朽化から数年前に撤去されました。
結果として、いまはかつての商店主たちが近所で買い物をすることが困難となり、彼らの生活を移動販売車が支える形となっているのです。
車での移動を前提とした社会となり、住宅も郊外に拡散したことで、商店やにぎわいの中心も街の外へ移ってしまいました。とくし丸のような新しいサービスが地域社会の支え手になっていくことへの期待とともに、まちづくりにおいて、どこでボタンの掛け違いが生じてしまったのかと、今更ながらにとりとめのない疑問を感じる光景でした。
(Kyodo Weekly・政経週報 2021年2月1日号掲載)
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