業務用が低迷、家庭用は伸びる コロナに揺れた20年酒類市場 幕田宏明 矢野経済研究所フードサイエンスユニット主任研究員
2021.02.12

(写真はイメージ)
2020年の酒類市場は、新型コロナウイルス感染症の影響で業務用の需要が落ち込む苦境に陥った一方で、巣ごもり需要から家庭用は伸びた。10月には酒税法改正があり、ビール類を中心に動きがあった。1年の動きを振り返り、21年以降の動きを探った。
宴会需要は"蒸発"
20年は感染拡大が本格化し始めた3月以降、さまざまなイベントが中止や延期を決め、ホテルの宴会や結婚式、送別会などの自粛も相次いだことで酒類市場も業務用を中心に閉塞感が漂い始め、4月に入り緊急事態宣言が発出されると、在宅勤務の拡大や不要不急の外出自粛による人の流れの減少に加え、飲食店も営業時間短縮や休業を余儀なくされたことで業務用需要が"蒸発"した。
夜間の営業を制限された飲食店ではランチ営業やテイクアウトの強化を図り、国税庁が特例として「期限付酒類小売業免許」の付与を決定し、酒類のテイクアウトが期間限定で可能となったことで、ランチとともにお酒を購入する消費者の姿も見られた。
それでも居酒屋をはじめとする料飲店のダメージは大きく、東京の業務用酒販店では4月の売り上げが前年の9割減となるなど壊滅的な打撃を受け、その後も時短要請の緩和やビールメーカーを中心とした料飲店支援、政府の消費喚起策「Go To キャンペーン」などで一時的に消費は上向くものの、前年の水準には遠く及ばず、夏の第2波、年末からの第3波と感染が再拡大するたびに客足は遠のいた。
「オンライン飲み会」に可能性
業務用市場が大きく落ち込んだ一方で、巣ごもり需要の高まりから家庭用は堅調で、ネット通販や量販店での酒類販売は増加した。コンビニにおいても都心やオフィス街の店舗は低調であったものの、郊外店における酒類販売は良好で、巣ごもり需要の恩恵を受けた形となった。
こうした購買チャネルの変化に加え、コロナ禍において人との交流が制限された中、リモートでのオンライン飲み会といった新たな飲用スタイルが若年層を中心に広がったことは、将来に向けて新たな可能性を示す数少ない好材料であった。
業務用市場の低迷、家庭用市場の伸長は、各カテゴリーの明暗も分けた。
中でもビールは業務用比率が約3割を占め、影響は深刻であった。そのため、ビール類に占めるビール比率が高く業務用に強いアサヒビールは大苦戦し、一方で業務用比率が低く新ジャンルを含め家庭用に強みを持つキリンビールは影響を最小限に抑え、11年ぶりにビール類のシェアをアサヒビールから奪還した。
酒税法改正でビール好調
ビール類は2026年までに段階的に酒税が一本化されるが、20年10月に第一弾の改正が行われ、350㍉㍑当たりビールは7円の減税、新ジャンル(第3のビール)は約10円の増税となった(発泡酒は据え置き)。
ビールは業務用が激減したものの、巣ごもり需要や減税の効果もあり、家庭用の缶製品は各社の主力ブランドを中心に好調な動きが目立った。家庭用を中心とする新ジャンルが増税となった10月以降は落ち込んだものの、年間トータルではプラスとなった。
その他、ハイボール人気で伸長が続いていたウイスキーについては、家庭用は好調であったものの業務用の落ち込みをカバーすることは出来ず、12年ぶりに減少に転じた。節約志向から大容量品が増加した反面、普段よりワンランク上のウイスキーを選択するという新たな傾向も見られた。
コロナ禍を追い風に伸長したのは、ハイボール缶をはじめ買えばすぐ飲めるRTD(Ready to Drink)である。RTDは節約志向を背景に13年連続での拡大となり、ここ数年は2桁台の増びで推移している。巣ごもり需要の増加でこれまで飲用していなかったユーザーのトライアルやリピートも獲得し、さらに裾野が広がったことで独り勝ちの様相を呈している。
家庭用なお重要に
2021年に入っても11都府県で緊急事態宣言が発令され、飲食店は時短営業を強いられるなど逆風は続いている。業務用市場の回復は不透明感を増しており、影響は長期間に及ぶと考えられる。
業務用比率の高いビールやウイスキーなどが落ち込み、新ジャンルやRTDといった家庭用比率の高いカテゴリーが伸長したことからも、当面は家庭内需要の取り込みが重要となる。
そのためには家庭での消費喚起やブランドの再構築、事業の構造改革など、消費者のライフスタイルの変化を捉えた新しい取り組みが必要不可欠となる。その一方で、窮地に立たされた居酒屋など日本独特の飲酒文化の火を消さぬよう、料飲店支援も同時並行で注力していかなければならない。
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