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地域で道を守る   沼尾波子 東洋大学教授

2020.11.09

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地域で道を守る   沼尾波子 東洋大学教授の写真

 私たちが日々、利用する道路や橋梁の老朽化が問題となっている。道路や橋梁は、陥没や崩落が起これば人命に関わる事態ともなりかねず、適切な維持管理が求められる。早期の維持補修を通じた長寿命化対策は、中長期的なコスト削減につながるともいわれる。

 だが、実際には、財政難や公務員数の削減により、道路・橋梁に対する十分な予算ならびに点検体制の確保が出来ているとはいえないのが現状だ。維持更新にかかる予算が確保できないままの道路や橋梁もある。

 こうした課題に対し、地域のさまざまな担い手が集い、取り組む事例が出てきた。その一つが、長崎大学インフラ長寿命化センターが中心となって取り組む「道守」システムである。(写真:同センターHPより)

 離島が多く、多くの道路・橋梁をもつ長崎県内では、その維持管理、更新のための財源と人材の確保が課題となっている。

 そこで、長崎大学を中心に、県土木部や関係団体が一体となって構築したのが「道守」である。これにより、一般市民から技術者まで、多様な人々が道路・橋梁を日ごろから見守り、長寿命化を図るための参加と連携の仕組みが構築されている。

 参加を希望する市民は、半日の講習を受講すると「道守補助員」となることができる。通勤通学や買い物、犬の散歩などで道路や橋の不具合を見つけたら、当該箇所をスマートフォンなどで撮影し、それを長崎大学に送信する。

 大学では、写真から緊急度を判断し、当該道路などを管理する行政機関に位置情報と画像データを速やかに送信することで、早期点検・補修につなげる。

 技術者の場合、一定期間の研修を受け、点検や維持管理の技術やノウハウを習得することで「道守」「特定道守」などの資格を得る。研修の場には、多様な技術や知識を持った人々が集い、点検や維持管理、更新にかかる知見やノウハウの集約と共有が図られている。

 長崎発祥の「道守」はすでに他県にも横展開が図られている。各地で、地域の実情に応じた、道路・橋梁の長寿命化に関する連携プラットフォームが構築され、効率的で効果的な道路・橋梁の維持管理、長寿命化が図られていくことが期待される。

 「道守」制度以外にも、例えば千葉市では、住民が道路や公園施設などの損傷に気づいた場合、その画像データを送信し、速やかな修繕につなげる「ちばレポ」というプラットフォームを運営している。

 報告登録者数は5000人を超えるが、投稿情報が共有されることで、道路や公園などの公共空間について、市民が自分事として関心を持つきっかけが生まれている。

 身近な道路や橋梁などの保全管理に向けて、市民も専門家も、それぞれの立場から参画できるつながりの場が、情報通信技術(ICT)の利活用を通じて各地で創出されている。リアルとオンラインを組み合わせた連携の場が、安心・安全なまちづくりにつながっていくことを期待したい。

(Kyodo Weekly・政経週報 2020年10月26日号掲載)

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