東京圏転出超過をどうみるか 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員
2020.10.05
7月、東京圏(埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県)の人口移動が転出超過となった。経済の中心である東京圏は、長らく転入超過で推移しており、転出超過は東日本大震災の影響が色濃く残っていた2012年12月以来となる。
今回は、新型コロナウイルスの感染拡大とリモートワークの普及により、地方移住が注目されているという文脈になぞらえてマスコミに取り上げられた。
しかし、データを詳細にみると、足元の転出超過は、必ずしも地方への移住が増えたことによるものとは言い切れない。7月に限らず、緊急事態宣言が発動された4月以降、東京圏の転入超過は昨年実績に比べて低い水準で推移していた。
転入超過は、転入者数から転出者数を差し引いた余剰分である。東京圏の転入超過を、転入者数と転出者数に分けてみると、4月以降、前年同月比で転入者数の減少が顕著となっている。
移住者の増加により地方への転出が増えるという期待とは裏腹に、東京圏からの転出者数も同じく減少傾向にあるが、転入者数の減少幅が、転出者数のそれを上回った形である。
すなわち、4月以降、東京圏の転入超過が減少しているのは、東京圏への流入が減少したことによるものと言ってよい。移動自粛などによって、全国的に人口移動が停滞する中、東京に限っては、転入者数の減少が顕著に表れた格好となっているのである。
東京圏への流入が減少した理由は、ずばり経済環境の悪化である。地方創生戦略にもとづき、多くの地方自治体が移住者獲得に取り組んできたにもかかわらず、人の流れはおおむね経済情勢により決定され、比較的景気の良かった2015年以降は、東京圏の転入超過が膨らんだ。
コロナ禍によって、急速に景気が冷え込む中で、東京では有効求人倍率が急落しており、仕事を求めて地方から東京へ向かう人の流れが滞っていることが、東京圏への流入を押しとどめる主因だと考えられる。
また、4月にも転入者数の大幅減少がみられたが、これは、大学の休校および遠隔授業導入に伴い学生の上京が止まった影響もあろう。
以上より、今般、東京圏が転出超過となった事象をもって、地方創生が成功裏に進んでいると過信することや、移住者が大挙して地方を目指しているという誤った認識は、今後の政策運営に負の影響を与える恐れがある。
とりわけ注意が必要なのが、経済の停滞下、地方に残る若い世代が増えることで、彼らが、生産性が低く、低賃金の仕事に就くことを余儀なくされる可能性が高まることである。
そうした動きが、新たな就職氷河期世代を生むことにつながる可能性も否定しえない。すでに、海外ではロックダウン世代、国内ではコロナ世代なる造語までささやかれ始めた。
2015年以降の地方創生戦略の過程で、生産性の高い雇用を生む努力が不十分なままに、単なる移住支援に傾注してきたような地域では、若い世代が生産性の低い仕事を分け合い、ようやく糊口をしのぐようなことになりかねない。
地方自治体や地域の産業界は、コロナ禍にあっても強い地域産業の創造に向けた不断の取り組みが求められる。
(Kyodo Weekly・政経週報 2020年9月21日号掲載)
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