人口増への仕掛けづくり 出町譲 ジャーナリスト
2020.09.21
新型コロナをきっかけに、東京一極集中が是正されるという期待感が出ている。「3密の極み」東京から、人口の少ない地方へ人が流れるというのだ。
しかし、私はそんな単純なストーリーにはくみしない。どこの地方もそんな恩恵にあずかれるわけではない。口を開けていれば、人口が増えるわけではない。大事なのは、それぞれの地方が危機感を持って仕掛けをつくることだ。
そうした意味で、今回ご紹介したいのは、愛知県新城市の「若者議会」だ。
この若者議会は、よくある模擬議会とは、一線を画す。実際に予算を確保し、その使い道を決めている。つまり、若者の意見が目に見える形で実現する。それでは、若者議会とは具体的にどんなものなのか。
若者委員は公募で選ばれる。おおむね16歳から29歳で、市内在住、通勤、通学の20人。高校生、大学生、若い社会人がメンバーだ。任期は1年で、年に20回程度の会議を開く。非常勤特別職の公務員という立場で、1日当たり、3000円の報酬がある。
これまで、若者議会が市長に提案し、実現した政策は数多い。例えば市内の図書館の改修だ。利用者が少なかった2階の展示場所を学生が勉強できるような多目的スペースに改修した。その結果、利用者が急増した。(写真:上が改修後、下が改修前=いずれも新城市提供)
また、バスの利用者を増やして活性化につなげようと「バス攻略アドベンチャー」なるイベントを企画した。実際に運転席に座ることができたり、バスと綱引きしたりなど、バスを身近に感じさせ利用率の向上に取り組んだ。
若者議会は、条例に基づき設置され、若者たちが予算の使い道を自ら考える。予算は、毎年1000万円ほど。あえて条例化したのは、市長が代わっても、継続するためだ。新城市では、若者議会が始まってから、高校生が市役所に立ち寄ることが増えたという。
全国でも珍しいこの取り組みが始まったのは、2015年だ。きっかけは、元岩手県知事の増田寛也氏の、いわゆる増田リポートだった。新城市はこのリポートで、県内の市で唯一、消滅可能性都市に名前が挙がった。
新城市はこのリポートを受けて、危機感を抱く。消滅させないためには、どうすべきか。真剣に考えた。若者に住んでもらうのが大事なポイントだとし、若者議会の設置となった。
この「危機感」こそが、地方衰退に歯止めをかける原動力になる。従来型の公共事業や工場誘致とは違った形で、どんな仕掛けを打ち出すか。限られた予算の中での実行力が、首長に問われている。
(Kyodo Weekly・政経週報 2020年9月7日号掲載)
最新記事
-
お墓、どうされますか? 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員 ...
出生数減少が止まりません。2015年には100万人以上あった出生数が、7年後の...
-
国産FSC認証広葉樹材を販売 堀内ウッドクラフト
日本森林管理協議会(東京都世田谷区、FSCジャパン)は、木工品製造販売の堀内ウ...
-
ウクライナ支援で一致 週間ニュースダイジェスト(4月16日~22日)
先進7カ国(G7)農相会合が宮崎市で、2日間の日程で開幕した(4月22日)。ウ...
-
「地域創生」五感で学ぶ 東京農大「食と農」の博物館が企画展
東京農業大学(江口文陽学長)の「食と農」の博物館(東京都世田谷区)は21日、企...
-
健康食品市場9000億円超へ 23年度、ストレス・睡眠・肥満対策で堅...
矢野経済研究所がこのほど発刊した市場調査資料「2023年版 健康食品の市場実態...
-
幸福は口福から 安武郁子 食育実践ジャーナリスト 連載「口福の源」
人間の最後まで残る欲の一つである「食欲」(※)。おいしさを味わう幸せ「口福」。...
-
漁師さんが「かわいい」と気付いた日 中川めぐみ ウオー代表取締役 ...
水産の世界は物理的な距離よりも、精神的な距離が遠い。水産業界以外の方と、こんな...
-
花粉症対策でスギの伐採加速 週間ニュースダイジェスト(4月9日~15...
政府は首相官邸で花粉症対策を議論する初の関係閣僚会議を開き、岸田文雄首相は6月...
-
リニューアル、地方進出活発に 動き出した自治体アンテナショップ 畠...
最近、自治体のアンテナショップの移転、リニューアル、新規出店が全国的に活発だ。...
-
生産拡大と持続可能性の両立を議論へ 週間ニュースダイジェスト(4月2...
気候変動やロシアのウクライナ侵攻で食料の安定供給が世界的な課題となる中、先進7...