農業構造改革の退潮加速へ 安倍首相が退陣表明 共同通信アグリラボ所長 石井勇人
2020.08.28

安倍晋三首相が28日夕に辞任を表明し、9月中にも新政権が発足する。自民党の後継総裁候補として、石破茂元幹事長、岸田文雄政調会長、菅義偉官房長官らの名前が挙がっているが、誰が選ばれても農業政策に大差はないだろう。
新首相が来年10月21日の衆院議員任期を待たず、早期の衆院解散・総選挙を決断する可能性は極めて高くなった。農村票の離反を恐れる自民党は、構造改革路線を当面は封印したい。首相の辞任により、すでに昨年秋から鈍化が鮮明になっていた安倍政権の農業改革は、さらに退潮が加速する。
2009~12年にかけて野党時代の自民党は、環太平洋連携協定(TPP)交渉参加に反対しながら、政権奪還後に豹変した。その後繰り返された「選挙さえ勝てば何でもあり」の原型と言ってよいだろう。「攻めの農業」「強い農業」というフレーズで推進された安倍農政は、TPPなどの貿易自由化とセットで進められた。
従って15年10月にTPP交渉が大筋合意すると、トーンダウンが始まった。安倍首相は12年末の政権奪還後の以降、施政方針演説や所信表明演説で必ず「強い農業」に触れてきたが、今年1月の施政方針演説では農業政策そのものに言及していない。背景には、昨年秋から解散・総選挙が意識され始め、安倍農政に距離を置いていた二階俊博幹事長の存在感が高まったことがある。
今年3月末に閣議決定した農政の新たな中期指針である「食料・農業・農村基本計画」は、5年前に策定した前回の計画と比べると、中小規模の農家や農村への配慮を強く感じる。さらに新型コロナウイルスの感染拡大で、行きすぎたグローバル化の見直し機運が高まっている。
誰が後継総裁になっても、農業政策については「国内生産の強化」を促す方向を強調することになる。農業土木事業など公共事業を意識した場合は「国内生産基盤の強化」という表現を使って訴えるだろう。野党が主張すると想定される「食料自給率向上」について、さらに踏み込むかもしれない。
新政権が支持率が高いうちに総選挙に臨もうとすれば、年内解散の可能性は高まる。その時に与党はどのようなレトリック(巧みな弁説)を用い、安倍農政との連続性を説明するのだろうか。
長い目で見ると、農政は振り子のように行ったり来たりしながら、改革路線をゆっくりと歩んでいることが分かる。有権者側にもレトリックを見破る見識が求められるだろう。(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)
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