食農の専門家としての中村哲さん ペシャワール会 村上優会長
2020.08.19
食の新潟国際賞の大賞受賞について、ペシャワール会の村上優会長の所感は次の通り。
中村哲さんの妻・尚子さんに受賞を報告したら、「素人が専門家として認められた」と、大変に喜んでいました。中村さんの本来の専門は医師であり、食料・農業分野では「素人」として活動を始めたからです。
中村さんは1984年にパキスタンのペシャワールでハンセン病の治療のために派遣されました。78年のソ連軍のアフガニスタン侵攻から89年に撤退するまで、アフガニスタンから300万人とも500万人ともいわれる難民がペシャワールへ押し寄せました。中村さんは86年に、日本・アフガン医療サービス(JAMS)を設立して難民の診療に取り組み、ソ連軍撤退の2年後、内戦が下火になった時、ハンセン病の多発地帯で医療過疎地でもあるアフガニスタン東部の山岳部に診療所を次々と開設しました。
2000年に大干ばつが起きて更に飢餓難民として国外に出ていく。それをなんとか食い止めようと、まずは水を確保するために井戸の掘削を始め、03年からは用水路の建設に着手しました。なぜ「水」か。中村さんの答えは、食べるものを得ること、そして難民にならずに自分の故郷で家族一緒に住んで、それが平和の礎になるという信念です。
今や、クナール河の流域約1万6500㌶で、約65万人が飢えずに生活ができるようになりました。日本の江戸時代の農業土木技術をアフガニスタンに適用して地元に根付かせ、これをPMS=Peace(Japan)Medical Services=方式と呼んでいます。アシュラフ・ガニ大統領はこのPMS方式を取り入れ、今でも干ばつが進行しているアフガニスタンを復興させる方針を立てられました。
中村さんの事業と希望を引き継ぐのが、われわれの合言葉です。クナール河上流の灌漑事業がこの秋に着工します。土木学会技術賞や農業農村工学会賞(2009年)を受賞し、農業土木の専門家として認知されるようになりました。食の新潟国際賞の大賞受賞で食農分野でも認められ、副賞の1000万円はこの工事の一部に充てることを検討中です。
スタートはアフガニスタン東部での活動でしたが、この事業が末永く続いて広がり、それがアフガン全土、そして世界の平和につながることを中村さんも祈っていると思います。(談)
むらかみ・まさる 1949(昭和24)年8月29日、鹿児島生まれ、九州大学医学部卒。研修医として勤務した国立肥前療養所(現・肥前精神医療センター)の1年先輩が中村さん。ペシャワール会発足時から中村医師を支え、人道支援の原点「命の不平等への憤り」に共鳴して行動を共にしてきた。1992年~2008年ペシャワール会事務局長、15年から同会会長。
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