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「ふるさと納税」と地域振興  沼尾波子 東洋大学教授

2020.08.10

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「ふるさと納税」と地域振興  沼尾波子 東洋大学教授の写真

 6月、大阪府の泉佐野市ふるさと納税訴訟の最高裁判決が出された。ふるさと納税とは、個人が自治体に寄付を行った場合、寄付額から2000円を差し引いた金額が、所得税・住民税から控除される制度である(上限あり)。

 寄付を受けた自治体は、寄付額の3割を上限に地場産品などの返礼品を送ることができる。多くの人々が、各種ウェブサイトから、全国各地の特産品をショッピング感覚で「購入」するかのように寄付を行い、さまざまな返礼品を享受している。

 泉佐野市の場合、アマゾンギフト券など地場産品以外の返礼品を採用し、高い返礼割合で提供を続けていた。このため総務省が、ふるさと納税制度の指定団体から除外し、そのことが裁判の争点となった。

 このふるさと納税には、問題が多い。国や寄付者居住自治体で税収が減少することに加え、高額所得者ほど返礼品による多くの「利得」を享受できるという逆進性が生じているからだ。

 国税や地方税の減収分は公債発行で補填されていると考えれば、高額所得者が寄付を通じて高級和牛などの返礼品を手に入れ、国が借金でそれらを肩代わりしているともいえる。

 この返礼品の仕組みによって、税制も、寄付の理念も大幅にゆがめられていることを、筆者はこれまで批判的に見ていた。

 しかしながら、北海道上士幌町を昨年訪問し、ふるさと納税制度にはこんな一面もあったのかと、深く考えさせられた。(写真:上士幌町ふるさと納税特設サイト)

 上士幌町はこの制度を通じ、最近では年間15億円を超える寄付金収入を得ている。これらを活用して「認定こども園10年完全無料化」をはじめ、各種の取り組みを実施してきた。

 返礼品には、地元の畜産・酪農業による牛肉や乳製品などが利用されており、ジェラート工房を整備し、産業振興にもつなげた。

 ふるさと納税の受け付けを町独自のウェブサイトから実施しており、いわゆる外部の「ふるさと納税サイト」を経由せずに寄付を受け入れる独自ルートを確立している。

 そのため、外部のサイト運営事業者に高額の手数料を支払う必要がなく、ウェブサイトの運営を含め、地元雇用に結びつけている。

 ふるさと納税による寄付を行った人々との交流会を東京で開き、新商品の試食や町のPRを行うとともに、体験宿泊の機会を創出することで、関係人口の創出に結び付ける取り組みも展開している。

 多くの自治体が、ふるさと納税サイトの運営業者に高額の手数料を支払い、地元産品以外の返礼品まで用意し、寄付を集めようと奮闘していた中で、上士幌町の戦略は、地元の産業振興、雇用機会創出、子育て施策などの充実、関係人口創出といった地域振興のツールとして、徹底的にこの制度を活用していた。

 魅力ある地元資源を生かし、新たな経済循環や人々とのつながりを構築する町の戦略を知り、この寄付制度の在り方について、改めて考えさせられた。

(Kyodo Weekly・政経週報 2020年7月27日号掲載)

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